キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『デカメロン』ジョヴァンニ・ボッカッチョ

この世の中では、誰でもとれるだけとっておくのがよろしい、ことに女の場合はそうですよ。女は使えるあいだに、男よりも時間を有効に使わねばなりません。——ジョヴァンニ・ボッカッチョ『デカメロン』 私は恋愛の経験なしには、いかなる人間も特や情をもつこ…

『カンタベリー物語』ジェフリー・チョーサー

「この盗っ人やろう、わたしを殺しやがったな。わたしの地所をとろうと思ったんだろう。でも死ぬ前に、おまえと接吻したいものだ」——ジェフリー・チョーサー『カンタベリー物語』 中世英国バラエティ番組 いつの時代どの土地であっても、ゆかいな物語は人々…

海外文学読みにおすすめする西洋絵画

アントニオ・タブッキ『レクイエム』に、登場人物がリスボンの美術館でヒエロニムス・ボッシュ『聖アントニヌスの誘惑』を眺めるシーンがある。はじめて本書を読んだとき、ボッシュも『聖アントニヌスの誘惑』も知らなかったわたしは、これほどまでに登場人…

『死都ブリュージュ』ジョルジュ・ローデンバック

彼女は彼にとって、生きうつしの、明確な姿をした思い出だった。 ——ジョルジュ・ローデンバック『死都ブリュージュ』 町と自分と女の区別がつかない ベルギーの画家フェルナン・クノップフによる『見捨てられた町』*1を見たとき、なんて幻想文学の表紙にうっ…

『崩れゆく絆』チヌア・アチェベ

「白人ときたら、まったくずる賢いやつらだよ。宗教をひっさげて、静かに、平和的にやって来た。われわれはあのまぬけっぷりを見ておもしろがり、ここにいるのを許可してやった。しかしいまじゃ、同胞をかっさらわれ、もはやひとつに結束できない。白人はわ…

『ギリシア神話を知っていますか』阿刀田高

この世界という不思議 ギリシア神話はどこかファム・ファタルめいている。いちど読み始めるとその深さにはまり、砂時計に入ったように抜け出せない。次から次へと知りたい物語が増え、この神はどの神と浮気をしたのか、親子関係はどうなっているのかが気にな…

『河岸忘日抄』堀江敏幸

遭難の作法 ふと、彼は思う。自分は、まだ待機していたい。待っていたい。だが、なにを待つのか?——堀江敏幸『河岸忘日抄』 霧の深い夜には、たいそう派手な失恋をして、なんの知らせもよこさずに遠い異国へふつりと消えた、気狂いの友人を思い出す。失踪し…

『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』カート・ヴォネガット

いったいぜんたい、人間はなんのためにいるんだろう?——カート・ヴォネガット『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』 豚に真珠 人は誰もが、小さな器を心に抱えてうまれてくる。うまれてまもなく、彼らをこの世に送り出した男女が水をそそぎ始める…

『宝島』ロバート・ルイス・スティーブンスン

死人箱島に流れついたは十五人ヨー、ホッ、ホー、酒はラムがただ一本——ロバート・ルイス・スティーブンスン『宝島』 だめな海商紳士 なんという語りの魅力だろう。<ベンボウ提督亭>、<遠眼鏡亭>、片足の老海賊、秘密の地図、宝島の蛮人、仕事人の鑑のよ…

『ジーキル博士とハイド氏』ロバート・ルイス・スティーブンスン

彼らの言うことは一致していた。それは、その逃亡者が彼を目撃した人たちに言うに言われぬ不具という妙に深い印象を与えたということだった。——ロバート・ルイス・スティーブンスン『ジーキル博士とハイド氏』 身勝手であることの醜悪さ あまりにも有名なこ…

Patience (After Sebald)、あるいはW.G.ゼーバルト『土星の環 イギリス行脚』

2001年、W.G.ゼーバルトは車の運転中に心筋梗塞をおこし、イングランド東部の道路で気を失ったまま横転した。57歳、早すぎる死だった。つねに抑制した筆致で、アクセルを踏むこともブレーキを踏むこともなく、記憶と記録を地すべりし続けた作家が、加速する…

『ケルトの神話』井村君江

「あなた方ケルト民族が、もっとも恐れるものは何でしょうか?」 巨大なたくましい体をした、ケルトの戦士たちはこう答えました。 「わたしたちは、どんな人間も恐れません。ただわたしたちが恐れるのは、空がわたしたちの上に落ちて来ないか、ということだ…

『ヘンリー五世』ウィリアム・シェイクスピア

王の責任か! ああ、イギリス兵一同のいのちも、 魂も、借金も、夫の身を案じる妻も、こどもも、 それまでに犯した罪も、すべて王の責任にするがいい! おれはなにもかも背負わねばならぬ。——『ヘンリー五世』ウィリアム・シェイクスピア 王冠を戴く人柱 こ…

『北欧神話と伝説』ヴィルヘルム・グレンベック

いまやスルトはただひとり戦場に立っている。彼は炬火を大地の上に投げ、こうして全世界は火炎に包まれて燃え上がるのである。——ヴィルヘルム・グレンベック『北欧神話と伝説』 血まみれの世界よ 世界の真ん中にひとつの巨大な空隙があって、その北には氷に…

『ヘンリー四世』ウィリアム・シェイクスピア

名誉ってなんだ? ことばだ。その名誉ってことばになにがある? その名誉ってやつに? 空気だ。結構な損得勘定じゃないか!——ウィリアム・シェイクスピア『ヘンリー四世』 ごろつき紳士の饗宴 燃えよ退廃の燈火、愛すべき百貫でぶ、王子ハリーつきの食用豚、…

『クララからの手紙』トーベ・ヤンソン

成績表なんて気にしないこと。パパとママに言いなさい。両の手を使って美しいものを造るというのは、場合によってははるかに大切な能力なのだと。——トーベ・ヤンソン『クララからの手紙』 気難しくも優し 他者のために己の心を殺すことは、優しさではない。…

『恋の骨折り損』ウィリアム・シェイクスピア

姫! どうか戦闘準備を! ご婦人がたも武装なさい! 敵襲です、平和の夢を むさぼってはおられません。恋が変装してやってきます。——ウィリアム・シェイクスピア『恋の骨折り損』 誓いよりやっぱり恋 恋の前には、どんな誓いも論理も通用しない。王様も貴族…

『ヴェローナの二紳士』ウィリアム・シェイクスピア

プローテュース ああ、恋の春は変わりやすい四月の空に似ている、 いま、燦々と美しく輝く太陽を 見せているかと思うと、 たちまち一片の雲が現れてすべてを掻き消してしまう。——ウィリアム・シェイクスピア『ヴェローナの二紳士』 恋か友情か シェイクスピ…

『終わりよければすべてよし』ウィリアム・シェイクスピア

人間の一生は、善と悪とをより合わせた糸で編んだ網なのだ。われわれの美点は欠点によって鞭打たれることがなければ高慢になるだろうし、われわれの罪悪は美徳によって慰められることがなければ絶望するだろう。——ウィリアム・シェイクスピア『終わりよけれ…

『ブリキの太鼓』ギュンター・グラス

なぜってオスカルよ、おまえだけがまことお伽のようで、おまえは過剰なほど渦巻模様にいろどられた角をもつ孤独な獣ではないか。——ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』 誰かの死に加担する ブリキの太鼓の音は、機関銃の銃声に似ている。胸を打つのではなく…

『すばらしい新世界』オルダス・ハックスリー

「しかし、それが安定のために、われわれが払わなくちゃならない犠牲なのだ」——オルダス・ハックスリー『すばらしい新世界』 完璧で幸福な世界 人に、涙は必要だろうか? “Brave new world”、尊敬すべき自動車王フォードを崇拝し、十字架のかわりにT字架が信…

「クジラスレイヤー ピークォド号炎上」:『白鯨』で『ニンジャスレイヤー』

登場人物 エイハブ:白鯨モービィ・ディックに片足を食われたセンチョ「エイハブ」に謎のホゲイソウル「ホゲイ・ピークォド」が憑依。ホゲイが抱えるクジラ殺戮渇望がエイハブの復讐心と重なり合い、恐るべきクジラ殺しのセンチョ「クジラスレイヤー」を誕生…

『男の事情 女の事情』ジョン・マクガハン

「これを忘れたんでね」とバーテンの無言の質問に答えて言った。その小さな素振りひとつひとつを演じることが、痛みを和らげてくれるかのようだった。——ジョン・マクガハン「僕の恋と傘」 誰にも事情はある アイルランドの苦みに刺されたいと思う時期は、冬…

『バベットの晩餐会』イサク・ディネーセン

至福千年のときを彼らは一時間だけ与えられたのだ。——イサク・ディネーセン『バベットの晩餐会』 料理の芸術 デンマークといえば、わたしの友人宅に居候していた饒舌なデンマーク人のことを思い出す。彼は友人が秘蔵していた日本酒をわがもの顔で空けては「…

『滅亡』ノサック

わたしたちは「目覚めるのだ。これはただの悪夢ではないか」とだれかが呼びかけてくれるのを期待していたのだ。しかしわたしたちはその願いを口に出すことはできなかった。悪霊がわたしたちの口を窒息しそうになるほど塞いでいたからだ。——ノサック『滅亡』 …

『土星の環 イギリス行脚』W.G.ゼーバルト

私たちの編みだした機械は、私たちの身体に似て、そして私たちの憧憬に似て、ゆっくりと火照りの冷めていく心臓を持っている。——W.G.ゼーバルト『土星の環 イギリス行脚』 崩落する記憶 「イギリス行脚」といいながら、実のところ彼はどこを旅していたのだろ…

『空襲と文学』W.G.ゼーバルト

[歴史の天使] W.G.Sebald "Luftkrieg und Literatur",2003. 空襲と文学 (ゼーバルト・コレクション)作者: W.G.ゼーバルト,鈴木仁子出版社/メーカー: 白水社発売日: 2008/09/29メディア: 単行本 クリック: 19回この商品を含むブログ (11件) を見る 「ただ瞼…

『無声映画のシーン』フリオ・リャマサーレス

今では雪になっている母に。——フリオ・リャマサーレス『無声映画のシーン』 架空の写真 わたしにとってリャマサーレスは“追憶の作家”である。かつてリャマサーレスは、すべてを食らい尽くす時間と記憶の漂白を、廃村に降る『黄色い雨』に例えた。 記憶は、お…

池澤夏樹の世界文学全集は、何が読まれているのか?

「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」は何が読まれているのだろう? 海外文学死亡かるたのまとめを作っているとき、ふとそんな疑問が頭をよぎった。 わたしにとって池澤夏樹の世界文学全集は、なんとも不可思議なポジションにある。持っていそうで持っていな…

海外文学死亡かるた

デザイナー死亡かるた 死亡かるたまとめ なんだか都ではやっているようなので、神保町古本祭りを記念して。 ジンをあおりながら適当に作ったものです。なんかいいネタございましたら追加しますので、Twitter(@0wl_man)宛かハッシュタグ(#海外文学死亡かる…