ボヘミアの海岸線

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トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』未読読書会

この世には、3種類の読書会が存在する。

課題図書を読み終わった読書会、課題図書を読んでいる最中の読書会、課題図書を読んでいない読書会だ。

 

私がよく参加するのは読了後の読書会で、たまに読んでいる最中の読書会に参加する。実際には、読んでいる最中の読書会は、読み終わった読書会に参加するつもりでまにあわなかった読書会なので、ねらって「読んでいる最中の読書会」への参加は少ない。

 

私は、課題図書を読んでいない「未読の読書会」に参加したことがない。読書会に参加してもう10年になるのに、私はいまだに3大読書会のひとつを経験したことがなかった。

このことに気づいてから、未読読書会をしたい気持ちがかつてないほど高まった。

しかし、私は未読読書会の初心者だ。読了後の読書会については多少の知見があるけれど、未読の読書会については知見も経験もない。

未読の本で読書会を開催したとしても、過去の経験にひきずられて、課題図書を読んでしまうかもしれない。いや、きっと読んでしまうだろう。そんなことだから私はいまだに、3大読書会のひとつを経験したことがないのだ。

 

最初は「本棚のすべての未読本は未読読書会である」と考えて、本棚におさまっている未読本すべての読書会をはじめることを考えた。

しかし、それではどうにも読書会らしくない。私にとって、読書会は「課題図書」と「参加者」が必要だった。課題図書を決めて、読書会を告知して、参加者を募らないと、読書会を開催した気分にならない。

そして、未読読書会においては、やはりすべての参加者に未読のまま参加してほしい。しかし、読書会に参加する猛者たち誰も読んだことがない課題本などあるのだろうか。

 

ある。まだ刊行されていない本なら、誰も読んでいない。

だから私は2019年のちょうど今ごろ、トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』読書会を開催すると告知した。 

 

 

Thomas Pynchon "Bleeding Edge" 読書会ではない。もうそれは世界中でたくさん開催されている。新潮社から刊行される予定の、トマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』刊行前読書会である。

これならきっと、誰もが未読読書会に参加できる。この告知は『ブリーディング・エッジ』読書会としては、たぶん日本でいちばんか2番か3番目ぐらいには早かったと思う。

 

『ブリーディング・エッジ』読書会には、たくさんの人が参加表明をしてくれた。ただひとつの情報、「2020年に新潮社から刊行される予定」というニュースひとつを頼りに、私は『ブリーディング・エッジ』の未読読書会を楽しんだ。

訳者と出版社はわかっている。内容は、インターネット社会の不気味さと聞いている。書影はどういうデザインか、どれぐらいの厚さになるのか、訳注はどれぐらいの量になるのか、ピンチョンが描くインターネットはどういうものなのか。楽しみだ。事前読書会ははかどった。

 

もちろん私は"Bleeding Edge" を持っているし、Goodreadsには"Bleeding Edge" の感想があふれている。でもそうじゃない。私は、佐藤良明氏と栩木玲子氏が訳す『ブリーディング・エッジ』を読みたいのだ。 

それに、原書と翻訳書は別のものだ。翻訳には、良くも悪くも、翻訳者の声が映りこむ。透明な翻訳者は存在しないし、私は翻訳者を透明だと思っていない。そうでなければ、翻訳者の名前を見て喜びはしない。

原書は原書、英訳は英訳、日本語訳は日本語訳として、私は読む。原書では作家の言葉とそのリズム、翻訳書ではこまかい文化背景や言い回しの解説をそれぞれ楽しめる。おそらく私は"Bleeding Edge" をいつか読むだろうが、やっぱり最初は『ブリーディング・エッジ』を読みたい。

 

そんなわけで、私はトマス・ピンチョン『ブリーディング・エッジ』未読読書会を2020年いっぱい楽しんだ。告知当時は、2020年に刊行される予定と聞いていたから、1年まるまる未読読書会をするとは思わなかったけれど。

『PEN』2020年11月号によれば、「2021年早々に刊行予定」らしい。

2021年になったら、しばらくは『ブリーディング・エッジ』未読読書会を続けて、刊行したら、読書中読書会と、読了後読書会も開催しようと思っている。

『ブリーディング・エッジ』事前読書会に参加してくれた参加者もきっと、有意義な読書会をしたことと思う。読書中読書会、読了後読書会でまた会いましょう。

 

 

この記事は、海外文学アドベントカレンダー12月25日分として、タイトルだけ先に思いついたものを雰囲気で書いた。海外文学アドベントカレンダーは、24人に書いてもらい、25日完走。とてもおもしろいエントリばかりなので、いろいろな人に読んでほしい。

Happy holiday!