ボヘミアの海岸線

海外文学を読んで感想を書く

評論・文学研究

『ラングザマー 世界文学でたどる旅』イルマ・ラクーザ|ゆっくりすることへの愛

いまでもそうだが、私は自分の本をほかの人にはどうしても貸したくない。どの本とも一つの(あるいは私の)愛の物語があり、ある本のカバーを見るだけでその本のストーリーだけでなく、そのストーリーとどのように私が関わったかということが呼び起こされる…

『孤独の迷宮』オクタビオ・パス|死は最も愛する玩具

我々は、本当に異なっている。 しかも本当にひとりぼっちである。 ーーオクタビオ・パス『孤独の迷宮』 私にとってメキシコは、ゆるやかながらも息の長い縁がある国だ。小さい頃に住んでいた町には老舗メキシコ料理店があって、祝いの時にはメキシコ料理を食…

『秘義と習俗』フラナリー・オコナー|私は南部とキリスト教の小説家

真のカトリック小説は、人間を決定されたものとは見ない。人間を、まったく堕落したものと見ることはない。かわりに、本質的に不完全なもの、悪に傾きやすいもの、しかし自身の努力に恩寵の支えが加われば救済されうるものと見るのである。 ――フラナリー・オ…

『アメリカ南部』ジェームス・M・バーダマン丨アメリカの内なる異郷

南部は奴隷制度に対する考え方にとどまらず、経済、農業政策、政治的展望などの点においても北部と意見を異にしていた。今日、奴隷制度は廃止され、政治風土も大きく変わり、メディアという媒体の発達を通じてアメリカの均質化は進む一方である。しかし、そ…

『ピラネージの黒い脳髄』マルグリット・ユルスナール|世界、この開かれた牢獄

「デンマークは牢屋だ」とハムレットがいう。「しからば世界も牢屋ですな」と気の利かぬローゼンクランツが言い返し、黒衣の王子をこの一度だけやりこめる。ピラネージがこの種の概念、囚人たちの宇宙という明確なヴィジョンをもっていたと想定すべきだろう…

『ボルヘスのイギリス文学講義』ボルヘス |円環翁が愛する英文学

作品のなかに幻想性だけを見ようとする人は、この世界の本質に対する無知をさらけだしている。世界はいつも幻想的だから。<BR>――ボルヘス『ボルヘスのイギリス文学講義』ボルヘスが愛する英文学周りを見ている限り、ボルヘスとの付き合い方は4つある。なに…

『他人まかせの自伝――あとづけの詩学』アントニオ・タブッキ

運転手は親切に聞いてくれました。どちらへお連れしましょうか。ある物語から抜け出したいのです。わたしは混乱しつつ、つぶやきました。行き先はどこでもいい、物語から逃げ出す手助けをしていただければ。わたしが作りだした物語ですが、今はそこから抜け…

『ナボコフのドン・キホーテ講義』ウラジミール・ナボコフ

『ドン・キホーテ』はこれまで書かれた中で最高の小説だと呼ばれてきた。もちろん、これはナンセンスだ。事実は、世界中の最大傑作の一つでさえないのだ。——ウラジミール・ナボコフ『ナボコフのドン・キホーテ講義』 ナボコフの鉈 どこで読んだのだったか、…

『作家とその亡霊たち』エルネスト・サバト

Ernesto R. Sabato El Escritory Sus Fantasmas, 1963.作家とその亡霊たち作者: エルネストサバト,Ernesto Sabato,寺尾隆吉出版社/メーカー: 現代企画室発売日: 2009/03/01メディア: 単行本 クリック: 17回この商品を含むブログ (3件) を見る 辺境から バー…

『ブッキッシュな世界像』池澤夏樹

[世界文学と日本人]ブッキッシュな世界像 (白水Uブックス―エッセイの小径)作者: 池澤夏樹出版社/メーカー: 白水社発売日: 1999/08メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 3回この商品を含むブログ (2件) を見る 海外文学読みにとって、池澤夏樹はなじみの深い…