ボヘミアの海岸線

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2017-01-01から1年間の記事一覧

『メダリオン』ゾフィア・ナウコフスカ|人間が人間にこの運命を用意した

さまざまなところから死亡の知らせが届く。…人びとはあらゆる方法で死んでいく、ありとあらゆるやりかたで、どんなことも口実にして。もう誰も生きていないし、しがみつくもの、守り通すものはないように思えた。死はそれほどに偏在していた。−−ゾフィア・ナ…

『侍女の物語』マーガレット・アトウッド|「男の所有物」となった女の孤独な戦い

わたしたちは二本の脚を持った子宮にすぎない。聖なる器。歩く聖杯。−−マーガレット・アトウッド『侍女の物語』 2017年、Huluがディストピア小説『侍女の物語』をドラマ化して人気を博しているという。トランプ政権になって『1984年』とともに『侍女の物語』…

『密林の語り部』バルガス=リョサ|物語の力、語りの力

<<私たちと違って、語り部のいない人々の生活は、どんなにみすぼらしいものだろう>> −−バルガス=リョサ『密林の語り部』 物語は救う 炎天下の7月末、室内で1日中ただ座っているべし、連絡を待て、ただ待て、という業務命令を受けたので、リョサリョサ『密林…

『パラダイス』トニ・モリスン|楽園で育つ殺意

彼を怒らせたのは、この街、これらの住民たちの何だろう? 彼らが他の共同体とちがうのは、二つの点だけだ。美しさと孤立。−−トニ・モリスン『パラダイス』 楽園で育つ殺意 自分がいる共同体に不満を抱く人間、なじめない人間がとりうる選択肢は3つある。 共…

『大いなる不満』セス・フリード|人間は不合理

それがゆえに、諸君のような若き科学者の多くは、ドーソンの研究に人生を捧げるようになっていく。その主題を扱う長く感傷的な博士論文によって大学図書館はどこも溢れかえらんばかりになっており、多くの論文は取り乱したラブレターのように書かれる傾向に…

『囚人のジレンマ』リチャード・パワーズ|人類全体の世話人

「信じられるか、この世界? 愛するしかないよな」−−リチャード・パワーズ『囚人のジレンマ』 人類全体の世話人 誰かを信じるには、それなりの時間と勇気を必要とする。それに比べて、不信感を抱くのはもっとずっとお手軽だ。疑いを抱くことも、自分を守るも…

『あなたを選んでくれるもの』ミランダ・ジュライ|人間はいやらしい、だが、それでいい

もし自分と似たような人たちとだけ交流すれば、このいやらしさも消えて、また元どおりの気分になれるのだろう。でもそれも何かちがう気がした。結局わたしは、いやらしくたって仕方がないしそれでいいんだ、と思うことに決めた。だってわたしは本当にちょっ…