ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想

海外文学/世界文学/ガイブンの書評と感想ブログ。昔の名は「キリキリソテーにうってつけの日」

▼中欧・東欧文学

『凍』トーマス・ベルンハルト|人間の形をした液体窒素

きみは恐れているのか。違うって。どっちなんだ。人類をか。観念をか。 人間の形をした液体窒素 『消去』を読んで以来、トーマス・ベルンハルトには、遠い異国に住んでいる親族に寄せるような、淡い親近感を抱いてきた。 世界を嫌悪し、近親者を嫌悪し、かつ…

『ボリバル侯爵』レオ・ペルッツ

「…あの謎めいた意思をなんと呼べばいいんだ。俺たちすべてをこれほどまでに弄び、惨めにしているあれを。運命か、偶然か、それとも星辰の永遠の法則か?」 ーーレオ・ペルッツ『ボリバル侯爵』 予告された自滅の記録 戦いにおいて最も効率がよい勝利方法は…

『メダリオン』ゾフィア・ナウコフスカ|人間が人間にこの運命を与えた

さまざまなところから死亡の知らせが届く。…人びとはあらゆる方法で死んでいく、ありとあらゆるやりかたで、どんなことも口実にして。もう誰も生きていないし、しがみつくもの、守り通すものはないように思えた。死はそれほどに偏在していた。−−ゾフィア・ナ…

『ハザール辞典』ミロラド・パヴィチ

ハザール族とは、大昔に世界の舞台から姿を消した古い民族である。その諺のひとつに言うーー霊魂にも骸骨がある、それは思い出でできていると。ーーミロラド・パヴィチ『ハザール辞典』幻の王国、奇想、召喚魔法セルビアの作家ミロラド・パヴィチは、中世に…

『火葬人』ラジスラフ・フクス

「あいつはどうかしている。いつもこうなんだ。大虐殺の現場に連れていかれるとでも思っているんだ……」 ——ラジスラフ・フクス『火葬人』 ホロコーストという“慈善” 心電図が停止しながらも生きている人間は、じつはけっこういるのかもしれない。心臓は動いて…

『夜毎に石の橋の下で』レオ・ペルッツ

一同が静まったところで高徳のラビは告げた。汝らのうちに、姦通の罪を負って生きる女、呪われた一族、主によって滅ぼされた一族の子がいる。罪人に告ぐ、進み出で己が罪を告白し、主の裁きを受けるがよい。――レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』 プラハの…

『厳重に監視された列車』ボフミル・フラバル

じいさんは真向からひるまず戦車に向って進んで行き、両手を一杯に延ばし、両の眼でドイツ兵たちに念力を注ぎ込んでいた……「ぐるっとまわって帰っていけ……」すると本当に先頭の戦車が停止し、全軍団がその場に立往生した、じいさんは先頭の戦車に指をふれ、…

『ナペルス枢機卿』グスタフ・マイリンク

私たちがなしとげる行為には、それがいかなるものにもあれ、魔術的な、二重の意味があるのだ、と。私たちには、魔術的でないことは、何ひとつできない――。——グスタフ・マイリンク『ナペルス枢機卿』 おぞましき、この現世 真夏の日照りが続くさなかにマイリ…

『ペインテッド・バード』イェジー・コシンスキ

ぼくは神の御子を殺したことの償いのためにこんなにたくさんのユダヤ人の命がはたして必要なのだろうかと思った。この世界はやがて、ひとを焼くための、ひとつの大きな火葬場になるだろう。司祭さんだって、すべては滅び、「灰から灰に」帰する運命にあると…

『黄色い街』ベーツァ・カネッティ

まったく奇妙な界隈である、この黄色い街というところは。不具者や、夢遊病者や、狂人や、絶望した者や、人生に飽きあきした人間がひしめいている。——ベーツァ・カネッティ『黄色い街』 沈黙の激情 ベーツァ・カネッティは、ブルガリア生まれのノーベル賞作…

『眩暈』エリアス・カネッティ

これほどの大金と、これほどの少量の理性とくれば、襲われて奪われるのが関の山。 気狂いとはおのれのことしか考えぬ者の謂である。——エリアス・カネッティ『眩暈』 頭脳なき世界 圧倒的な狂気である。 「眩暈」などという、そんな控えめな言葉では、とうて…

『ゴーレム』グスタフ・マイリンク

[さまよう路地裏] Gustav Meyrink Der Golem,1916.ゴーレム (白水Uブックス 190)作者: グスタフマイリンク,今村孝出版社/メーカー: 白水社発売日: 2014/03/12メディア: 新書この商品を含むブログ (11件) を見る 「ぼくらは単純に自分の自由意思で行動して…

『サラゴサ手稿』ヤン・ポトツキ

[異形だらけの千夜一夜] Jan Potocki Manuscrit trouve a Saragosse,1804?世界幻想文学大系〈第19巻〉サラゴサ手稿 (1980年)作者: 荒俣宏,紀田順一郎,J.ポトツキ出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 1980/09メディア: 単行本 クリック: 14回この商品を含む…

『わたしは英国王に給仕した』ボフミル・フラバル

[わたしは給仕した] Bohumil Hrabal Obsluhoval Jsem Anglickeho Krale,1971.わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)作者: ボフミル・フラバル,阿部賢一出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2010/10/09メディア: 単行本購入:…

『黒檀』リシャルト・カプシチンスキ

[無限の多様性] Ryszard Kapuscinski HEBAN,1998.黒檀 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)作者: リシャルト・カプシチンスキ,工藤幸雄,阿部優子,武井摩利出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2010/08/11メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 58回…

『コスモス』ヴィルド・ゴンブロヴィッチ

[ベンベルグ] Witold Gombrowicz Kosmos,1965.コスモス―他 (東欧の文学)作者: ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ,工藤幸雄出版社/メーカー: 恒文社発売日: 1990/03メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 28回この商品を含むブログ (10件) を見る 「わしにいわせ…

『終わりと始まり』ヴィスワヴァ・シンボルスカ

[語られなかった戦争] Wislawa Szymborska Koniec i Poczatek,1993.終わりと始まり作者: ヴィスワヴァ・シンボルスカ,沼野充義出版社/メーカー: 未知谷発売日: 1997/06/01メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 71回この商品を含むブログ (20件) を見る 終わ…

『消去』トーマス・ベルンハルト

私の頭に最終的に残っている唯一のものは、と私はガンベッティに言った、「消去」というタイトルだ。というのも私の報告は、そこに描写されたものを消去するために書かれるからだ。私がヴォルフスエックという名で理解しているすべて、ヴォルフスエックであ…

『肉桂色の店』『砂時計サナトリウム』ブルーノ・シュルツ

グロテスクなのに美しい Bruno Schulz Skeipy Cynamonowe,1934. Sanatorium pod klepsydra,1937.シュルツ全小説 (平凡社ライブラリー)作者: ブルーノシュルツ,Bruno Schulz,工藤幸雄出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2005/11/10メディア: 文庫購入: 3人 クリ…

『死者の軍隊の将軍』イスマイル・カダレ

[雨と死はいたるところに] Ismail Kadare Gjenerali i Ushtris〓 s〓 Vdekur,1963.死者の軍隊の将軍 (東欧の想像力)作者: イスマイルカダレ,Ismail Kadare,井浦伊知郎出版社/メーカー: 松籟社発売日: 2009/10メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 70回こ…

『可笑しい愛』ミラン・クンデラ

[笑えない悲しみ] Milan Kundera Risibles Amours,1968.可笑しい愛 (集英社文庫)作者: ミランクンデラ,Milan Kundera,西永良成出版社/メーカー: 集英社発売日: 2003/09メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 29回この商品を含むブログ (17件) を見る 私たちは目…

『昨日』アゴタ・クリストフ

[亡命者の言葉] Agota Kristof Hier ,1995.昨日 (ハヤカワepi文庫)作者: アゴタクリストフ,Agota Kristof,堀茂樹出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2006/05/01メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 45回この商品を含むブログ (28件) を見る そこにあったのは…

『エペペ』カリンティ・フェレンツ

[エペペペペ] Karinthy Ferenc EPEPE, 1970.エペペ作者: カリンティ・フェレンツ,池田雅之出版社/メーカー: 恒文社発売日: 1978/12メディア: 単行本 クリック: 9回この商品を含むブログ (16件) を見る 遅かれ早かれ、人はみなこの地に辿り着かねばならない…

『誰がドルンチナを連れ戻したか』イスマイル・カダレ

[誓いは果たされる] Ismail Kadare Qui a ramene doruntine? 1986.誰がドルンチナを連れ戻したか作者: イスマイルカダレ,Ismail Kadare,平岡敦出版社/メーカー: 白水社発売日: 1994/01メディア: 単行本 クリック: 6回この商品を含むブログ (7件) を見る い…

『砕かれた四月』イスマイル・カダレ

[血の掟の中に] Ismail Kadare Prilli i Thyer, 1980. 砕かれた四月作者: イスマイルカダレ,Ismail KAdar´e,平岡敦出版社/メーカー: 白水社発売日: 1995/06メディア: 単行本 クリック: 52回この商品を含むブログ (15件) を見る ああ、すぐそっちに行くよ、わ…

『砂時計』ダニロ・キシュ

[影揺れる] Danilo Kis Pescanik, 1972.砂時計 (東欧の想像力 1)作者: ダニロ・キシュ,奥彩子出版社/メーカー: 松籟社発売日: 2007/01/31メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 23回この商品を含むブログ (10件) を見る …煙の道は、ランプにたどりつくまでは…

『あまりにも騒がしい孤独』ボフミル・ フラバル

[笑う不条理] Bohumil Hrabal Příliš hlučná samota ,1977.あまりにも騒がしい孤独 (東欧の想像力 2)作者: ボフミル・フラバル,石川達夫出版社/メーカー: 松籟社発売日: 2007/12/14メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 103回この商品を含むブログ (49件) …

『カリギュラ』アルベール・カミュ

[不可能!] Albert Camus Caligula ,1944.アルベール・カミュ (1) カリギュラ (ハヤカワ演劇文庫 18)作者: アルベール・カミュ,Albert Camus,内田 樹(解説),岩切正一郎出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/09/25メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 42…

『ムントゥリャサ通りで』ミルチャ・エリアーデ

[饒舌と脱線] Mircea Eliade Pe strada Mântuleasa, 1968.ムントゥリャサ通りで作者: ミルチャエリアーデ,Mircea Eliade,直野敦出版社/メーカー: 法政大学出版局発売日: 2003/10/01メディア: 単行本 クリック: 18回この商品を含むブログ (13件) を見る い…

『ヴィトゲンシュタインの甥』トーマス・ベルンハルト

[ウィーンに生きた] Thomas Bernhard Wittgensteins Neffe , 1982.ヴィトゲンシュタインの甥作者: トーマスベルンハルト,岩下真好出版社/メーカー: 音楽之友社発売日: 1998/12/10メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (4件) を見る…