ボヘミアの海岸線

海外文学を読んで感想を書く

2015-01-01から1年間の記事一覧

『八月の光』ウィリアム・フォークナー

彼はそれを考えて静かな驚きに打たれた――延びてゆくのだ、数知れぬ明日、よくなじんだ毎日が、延びつづいてゆくのだ、というのも、いままでにあったものとこれから来るはずのものは同じだからだ、次に来る明日とすでにあった明日とはたぶん同じものだろうか…

ガイブン初心者にオススメする海外文学・ハードカバー編

溶けていく左足を回収しながらほうほうのていで巣に帰り、ぐうたらと引きこもって蜜酒を飲んでいたら、今年はまだ夏休みの自由研究をしていないと気がついた。そういうわけで、以前に書いた「ガイブン初心者にオススメする海外文学・文庫編」のハードカバー…

『イザベルに ある曼荼羅』アントニオ・タブッキ

死とは曲がり道なのです、死ぬことはみえなくなるだけのことなのです。 アントニオ・タブッキ『イザベルに ある曼荼羅』 後悔という不治の病 この世で生きることはあみだくじのようなもので、わたしたちはおびただしい選択をくりかえしながら、人生という不…

『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ

「しかし、霧はすべての記憶を覆い隠します。よい記憶だけでなく、悪い記憶もです。そうではありませんか、ご婦人」 「悪い記憶も取り戻します。仮に、それで泣いたり、怒りで身が震えたりしてもです。人生を分かち合うとはそういうことではないでしょうか」…

電子書籍(Kindle)で読めるオススメ海外文学

ここのところ、海外文学を読んだことがない人に海外文学を読んでもらう方法を模索していて、こんな記事を書いた。 この記事を読んだ人から「本を置く場所がないし持ち運びが重いから、電子書籍の海外文学リストが欲しい」というリクエストをもらったので、「…

『ヨブ記』

しかし わたしは全能者に語りたい、わたしは神に抗議したいと思うのだ。——『ヨブ記』 理不尽な神に抗う 神様はあなたたちの行いをすべて見ています、だからいい子でいるのですよ、そうすれば神様は神の国へ迎えいれてくれますという言葉が、百歳のシスター・…

『カンポ・サント』W.G.ゼーバルト|傍らにいるのだ、死者は

写真が人の胸をあれほど衝くのは、そこからときおり不思議な、なにか彼岸的なものが吹き寄せてくるからである。——W.G.ゼーバルト『カンポ・サント』 傍らにいるのだ、死者は ゼーバルトは、どの町を歩いていてもいずれ第二次世界大戦の瓦礫に漂着する、希有…

『ワインズバーグ・オハイオ』シャーウッド・アンダソン

自分以外のものの声が、人生には限界がある、とささやきかけてくる。自分自身と自分の将来について自信に溢れていたのが、あまり自信のない状態に変る。もしそれが想像力ゆたかな青年ならば、一つの扉が無理矢理こじあけられ、生まれてはじめて眼にする世界…

『いちばんここに似合う人』ミランダ・ジュライ

あなたは悪くない。もしかしたらそれは、わたしがずっと誰かに言ってあげたかった、そして誰かに言ってほしかった、たった一つの言葉なのかもしれなかった。 ミランダ・ジュライ「共同パティオ」 孤独の黒歴史 なぜわたしはわたしの人生の主人公なのに、こう…

『彼方なる歌に耳を澄ませよ』アリステア・マクラウド

山々はわれらをわかち、茫漠たる海はわれらを隔てる――それでもなお血は強し、心はハイランド。 ――アリステア・マクラウド『彼方なる歌に耳を澄ませよ』 血は水よりも濃い スコットランド人に会ったら、まず言われること。イングランドとスコットランドを絶対…

50人が選んだ、2500円以下のオススメ海外文学。「はじめての海外文学」フェア

「はじめての海外文学」フェアが、全国14書店で1月26日頃(給料日直後の月曜日、覚えやすいですね)からじわじわ始まるようですよ。 どんなフェア? 「海外文学にほんのり興味はあるけど、正直どれから始めてみたらいいのか分からない」という人のために、海…