ボヘミアの海岸線

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ノンフィクション

『地図の物語』アン・ルーニー|地図が小説に似ていた時代

一般に、地図の用途といえば、経路や地形を調べることだ。旅の手引きともなる。だが、歴史を振り返ると、こうした用途ばかりではないことがわかる。 ーーアン・ルーニー『地図の物語』 かつて地図が小説に似ていた時代があった。 「地図」といえば、今ならメ…

『アメリカ南部』ジェームス・M・バーダマン丨アメリカの内なる異郷

南部は奴隷制度に対する考え方にとどまらず、経済、農業政策、政治的展望などの点においても北部と意見を異にしていた。今日、奴隷制度は廃止され、政治風土も大きく変わり、メディアという媒体の発達を通じてアメリカの均質化は進む一方である。しかし、そ…

『波』ソナーリ・デラニヤガラ|耐えがたい現実を生きのびる

告白しないのは、まだ私自身が、起こったことをこんなにも信じていないからだとも思う。私はまだ愕然としている。自分に真実を言い聞かせなおすたびに唖然とするのだから、なおさらだろう。だから私は手間を省くために回避する。私は自分がその言葉を言うと…

『生物学と個人崇拝』ジョレス・メドヴェージェフ|国ぐるみで疑似科学を礼賛したカルト国家

「あなたはなぜダーウィンについて語り、なぜマルクスとエンゲルスから例を挙げないのか? マルクス主義とは唯一の科学である。ダーウィニズムは一部にすぎない。真の世界認識論をもたらしたのはマルクス、エンゲルス、レーニンなのだ。 ーージョレス・メド…

『ハリエット・タブマン』上杉忍|モーゼと呼ばれた伝説の逃亡奴隷

逃亡者は先のことを何も知らずに自らを投げ出さねばならない。北斗七星と北極星のみを頼りにただひたすら先に進んだ。星が見えないときは、樹木の幹のこけの生えている側から北の方向を知って進んだ。彼女は、州というものがあること自体を知らなかった。 ――…

『私はすでに死んでいる』アニル・アナンサスワーミー|自分の体を「異物」と感じる人たち

「コタール症候群は、地球に立ちはだかる巨大な黒い壁みたいなもの。そこから土星をのぞこうとしても、見えるはずがないのです」 ――アニル・アナンサスワーミー『私はすでに死んでいる』 「私は自分にとって永遠の異邦人である」と、アルベール・カミュは書…

『共食いの島』ニコラ・ヴェルト|生産的でない人を共食いさせた国家

いや、ちがう、同志、われわれはうまくやらねばならないとしても、春までには連中全部がくたばるように行動する必要がある。なにか着せるにしても、死ぬ前に少しばかり森の伐採をさせるのに間に合えば十分だ。 ――ニコラ・ヴェルト『共食いの島』 生産的でな…

『ピダハン』ダニエル・エヴェレット|神を信じない民と宣教師の30年

伝道師としてピダハンの社会を訪れていた最初のころ、私が村に来た理由を知っているか、ピダハンに尋ねてみたことがある。「おまえがここに来たのは、ここが美しい土地だからだ。水はきれいで、うまいものがある。ピダハンはいい人間だ」 ――ダニエル・エヴェ…

『ピノチェト将軍の信じがたく終わりなき裁判』アリエル・ドルフマン|チリに満ちる悪の惨禍

チリの誰もが気づいていた。本当に何が起きているのかを知っていた。近くの地下室で遠い砂漠で、果てしなく起きていることを知っていた。果てしなく起きる。これが抑圧の病的ロジックである。止むことなく続くというのがテロルの定義なのだ。 −−アリエル・ド…

『ぼくには数字が風景に見える』ダニエル・タメット

[世界は数字] Daniel Tammet Born on a Blue Day,2006. ぼくには数字が風景に見える作者: ダニエル・タメット,古屋美登里出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/06/13メディア: 単行本購入: 22人 クリック: 223回この商品を含むブログ (157件) を見る 理系…