▼オセアニア文学
膿んだ腫れ物に口づけした。潰瘍だらけの、膿がたまって腐りかけたくぼみだらけのやせ細ったすねを洗った。おれはその膿であり霊であり神であり、自分自身にすら解釈できず知ることができない存在だった。そのためにどれほど自分を憎んだことか。おれが愛し…
しごと ない。 家ない。 お金 ない。 トゥク トゥク トゥク! ――ショーン・タン『セミ』 鮮やかだ。あらゆる意味で鮮やかな書物である。 夏だからセミの話をする。主人公はセミだ。大企業でまじめに働いている。だが、報われない。灰色のスーツを着て、灰色…
見るのはつらい、だが見ずにいるのはもっとつらい。 ――リチャード・フラナガン『奥のほそ道』 生きて、死んで、そしてまた 突き詰めていけば私の関心ごとは、生と死とそれら不可避の事象をめぐる感情であるように思う。私の心をえぐり爪痕を残していく文学は…