ボヘミアの海岸線

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イタリア文学

『海と山のオムレツ』アバーテ・カルミネ|愛と祝祭に満ちた、ごはん文学

「豚のパスタ」 豚の肉とあばら骨の入ったトマトソースをとろ火でじっくり煮込んで、大量のミートボールを作ってから、ジティ(パスタ)とまざあわせる。 パスタとソースがまるで恋人どうしのように寄り添い、全員がとろけるキスの代わりにたっぷりのチーズ…

『ウンガレッティ全詩集』ジュゼッペ・ウンガレッティ|呆然とした空白の漂流

路上の/ どこにも/ 家を/ ぼくは/ もてない 新しい/ 風土に/ 出会う/ たびに/ かつて/ 慣れ親しんだ/ おのれを見つけては/ ぼくは/ やつれてしまう そのたびに見を引き離してゆく/ 行きずりの者として 生まれながらに/ あまりにも生きてしまった/ 時代からの…

『イタリアの詩人たち』須賀敦子|心に根を張った5人の詩人たち

おおよそ死ほど、イタリアの芸術で重要な位置を占めるテーマは他にないだろう。この土地において、死は、単なる観念的な生の終点でもなければ、やせ細った性の貧弱などではさらにない。生の歓喜に満ち溢れればあふれるほど、イタリア人は、自分たちの足につ…

『須賀敦子のヴェネツィア』大竹昭子|悲しみとなぐさめの島

ヴェネツィアは、なによりもまず私をなぐさめてくれる島だった。 ーー大竹昭子 『須賀敦子のヴェネツィア』 イルマ・ラクーザ『ラングザマー』、アンリ・ドレニエ『ヴェネチア風物誌』と続けてヴェネツィアにまつわる本を読んだので、さらにもう一歩、ヴェネ…

『ヴェネチア風物誌』アンリ・ドレニエ|妖術と魔術と幻覚の土地

まったく、ここは奇異なる美しさの漂う不思議な土地ではないか? その名を耳にしただけで、心には逸楽と憂愁の思いが湧き起こる。口にしたまえ、<ヴェネチア>と、そうすれば、月夜の静寂さのなかで砕け散るガラスのようなものと音を聞く思いがしよう……<ヴ…

『ヌメロ・ゼロ』ウンベルト・エーコ|ニュースと陰謀の融解

アメリカ人はほんとうに月に行ったのか? スタジオですっかりでっち上げたというのもあり得なくはない。月面着陸のあとの宇宙飛行士の影をよく観察すると、どこか信用しがたい。それに、湾岸戦争はほんとうに起こったのか。それとも、古いレパートリーの断片…

『イザベルに ある曼荼羅』アントニオ・タブッキ

死とは曲がり道なのです、死ぬことはみえなくなるだけのことなのです。 アントニオ・タブッキ『イザベルに ある曼荼羅』 後悔という不治の病 この世で生きることはあみだくじのようなもので、わたしたちはおびただしい選択をくりかえしながら、人生という不…

『デカメロン』ジョヴァンニ・ボッカッチョ|死の伝染病から逃れて百物語

この世の中では、誰でもとれるだけとっておくのがよろしい、ことに女の場合はそうですよ。女は使えるあいだに、男よりも時間を有効に使わねばなりません。——ジョヴァンニ・ボッカッチョ『デカメロン』 壮大なラテンの現実逃避 世界の終末に生き延びたとした…

『ウンベルト・サバ詩集』ウンベルト・サバ|坂の上のパイプ

このことを措いてほかには なにひとつ愛せず、わたしには なにひとつできない。 痛みに満ちた人生で、 これだけが逃げ道だ。――ウンベルト・サバ「詩人 カンツォネッタ」 坂の上のパイプ 数年ぶりにもういちどサバの詩集を読みかえしたとき、ふせんをつけたペ…

『他人まかせの自伝――あとづけの詩学』アントニオ・タブッキ

運転手は親切に聞いてくれました。どちらへお連れしましょうか。ある物語から抜け出したいのです。わたしは混乱しつつ、つぶやきました。行き先はどこでもいい、物語から逃げ出す手助けをしていただければ。わたしが作りだした物語ですが、今はそこから抜け…

『遠い水平線』アントニオ・タブッキ

「どうして、彼のことを知りたいのですか」 「むこうは死んだのに、こっちは生きてるからです」——アントニオ・タブッキ『遠い水平線』 目の中に水平線 見知らぬ人が死んでいる。今もどこかで、近くの路地で、遠い部屋の片隅で。だが、死はふだんの生活からは…

『木のぼり男爵』イタロ・カルヴィーノ

[ひとりぼっちの王国] Italo Calvino Il Barone Rampante,1957.木のぼり男爵 (白水Uブックス)作者: イタロカルヴィーノ,Italo Calvino,米川良夫出版社/メーカー: 白水社発売日: 1995/08メディア: 新書購入: 4人 クリック: 19回この商品を含むブログ (33件)…

『レクイエム』 アントニオ・タブッキ|これもまた追憶

[これもまた追憶] Antonio Tabucchi,Recuiem,1992.レクイエム (白水Uブックス―海外小説の誘惑)作者:アントニオ タブッキ発売日: 1999/07/01メディア: 新書 今日は7月最後の日曜日ですね、足の悪い宝くじ売りが言った。町はからっぽ、木陰にいても40度はある…

『島とクジラと女をめぐる断片』アントニオ・タブッキ

[難破船のような物語の断片] Antonio Tabucchi Donna di Porto Pim,1983.島とクジラと女をめぐる断片作者: アントニオ・タブッキ,須賀敦子出版社/メーカー: 青土社発売日: 2009/12/24メディア: 単行本 クリック: 17回この商品を含むブログ (7件) を見る 火…

『カフカの父親』トンマーゾ・ランドルフィ

[エキセントリックな想像力] Tommaso Landolfi Il Babbo Di Kafka E Altri Racconti ,1930-46. カフカの父親 (文学の冒険シリーズ)作者:トンマーゾ ランドルフィメディア: 単行本 誰も知らない心の内や、事件の顛末を、ひそりと、奇想天外に暴いて見せる。…

『インド夜想曲』アントニオ・タブッキ

[合わせ鏡の旅] Antonio Tabucchi Notturno Indiano , 1984.インド夜想曲作者: アントニオタブッキ,アントニオ・タブッキ,須賀敦子出版社/メーカー: 白水社発売日: 1991/01メディア: 単行本 クリック: 10回この商品を含むブログ (21件) を見る 「あなたの本…

『神を見た犬』ディーノ・ブッツァーティ

[不安と恐怖の種] Dino Buzzati IL COLOMBRE E ALTRI RACCONTI , 1966.神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)作者: ディーノブッツァーティ,関口英子出版社/メーカー: 光文社発売日: 2007/04/12メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 77回この商品を含むブログ (91件…

『天使の蝶』プリーモ・レーヴィ

[自然界に人間] Primo Levi STORIE NATURALI ,1966.天使の蝶 (光文社古典新訳文庫)作者: プリーモレーヴィ,Primo Levi,関口英子出版社/メーカー: 光文社発売日: 2008/09/09メディア: 文庫購入: 11人 クリック: 74回この商品を含むブログ (37件) を見る イタ…

『宿命の交わる城』イタロ・カルヴィーノ

[文字以外で語る] Italo Calvino Il Castello Dei Destini Incrociati , 1973. 宿命の交わる城 (河出文庫)作者: イタロ・カルヴィーノ,河島英昭出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2004/01/07メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 408回この商品を含むブロ…

『タタール人の砂漠』ディーノ・ブッツァーティ

[待てど待てど] Dino Buzzati IL DESERTO DEI TARTARI ,1940.タタール人の砂漠 (岩波文庫)作者: ブッツァーティ,脇功出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/04/17メディア: 文庫この商品を含むブログ (24件) を見る イタリアの作家、ブッツァーティの待ちぼ…

物語の迷宮|『薔薇の名前』ウンベルト・エーコ

[物語の迷宮] Umberto Eco Il Nome della Rosa,1980.薔薇の名前〈上〉作者: ウンベルトエーコ,河島英昭出版社/メーカー: 東京創元社発売日: 1990/02/18メディア: 単行本購入: 11人 クリック: 197回この商品を含むブログ (185件) を見る薔薇の名前〈下〉作…

渦の真ん中に立つ|『供述によるとペレイラは…』アントニオ・タブッキ

[渦の真ん中に立つ] Antonio Tabucchi SOSRIENE PEREIRA. UNA TERTMONIANZA , 1994.供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑)作者: アントニオタブッキ,Antonio Tabucchi,須賀敦子出版社/メーカー: 白水社発売日: 2000/08/01メディア: 新書購…

『猫とともに去りぬ』ロダーリ

[誰もつっこまない] Gianni Rodari Novelle fatte a macchina ,1994.猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)作者: ジャンニロダーリ,関口英子出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/09/07メディア: 文庫購入: 6人 クリック: 26回この商品を含むブログ (58件) …