ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想

海外文学/世界文学/ガイブンの書評と感想ブログ。昔の名は「キリキリソテーにうってつけの日」

▼アジア文学

『自転車泥棒』呉明益|誰にも話せなかった傷と痛み

「まあ、ふたりとも、自分の人生のねじをどこかで落としてしまったんだろう。自分のことが、自分でもわからない」 「会話のスイッチが壊れているんだ」 「そう、壊れている」 話せなかった傷と痛み 痛ましい出来事によってうまれた傷との付き合い方は、人に…

『こびとが打ち上げた小さなボール』チョ・セヒ|人間扱いされない世界

天国に住んでいる人は地獄のことを考える必要がない。けれども僕ら五人は地獄に住んでいたから、天国について考え続けた。ただの一日も考えなかったことはない。毎日の暮らしが耐えがたいものだったからだ。 人間扱いされない世界 「人間扱いしてほしい」。…

最低な世界は最低だ|『野蛮なアリスさん』ファン・ジョンウン

まだ落ちてて、今も落ちてるのだ。すごく暗くて長い穴の中を落ちながら、アリス少年が思うんだ、ぼくずいぶん前にうさぎ一匹追っかけて穴に落ちたんだけど……そんなに落ちても底に着かないな……ぼく、ただ落ちている…落ちて、落ちて、落ちて……ずっと、ずっと………

『菜食主義者』ハン・ガン|境界の向こうに行った人

ふとこの世で生きたことがない、という気がして、彼女は面食らった。事実だった。彼女は生きたことがなかった。記憶できる幼い頃から、ただ耐えてきただけだった。 境界の向こうに行った人 人間という業の深い生物にうまれ、不幸にも鈍感さを持ち合わせてい…

『すべての、白いものたちの』ハン・ガン|白をたぐりよせて葦原へ

顔に、体に、激しく打ち付ける雪に逆らって彼女は歩きつづけた。わからなかった、いったい何なのだろう、この冷たく、私にまっこうから向かってくるものは? それでいながら弱々しく消え去ってゆく、そして圧倒的に美しいこれは? 白をたぐりよせて葦原へ モ…

『アルグン川の右岸』遅子建| 消えゆく一族の挽歌

私はすでにあまりに多くの死の物語を語ってきた。これは仕方のないことだ。誰であれみな死ぬのだから。人は生まれるときにはあまり差がないが、死ぬときは一人ひとりの旅立ち方がある。 消えゆく一族の挽歌 人生は、死というゆるぎない結論へ向かう一方通行…

『地図集』董啓章

さらに過激な議論もあり……この理論によれば、地図上のすべての場所は取替地であり、どんな場所もかつてはそれ自身ではなかったし、永遠に別の場所に取り替えられるのである。――董啓章「地図集」 地図は小説 『千と千尋の神隠し』で、湯婆婆(ゆばーば)は千…

『白檀の刑』莫言

[悲喜こもごも] 莫言 檀香刑 ,2001. 白檀の刑〈上〉作者: 莫言,吉田富夫出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2003/07メディア: 単行本 クリック: 34回この商品を含むブログ (20件) を見る 白檀の刑〈下〉作者: 莫言,吉田富夫出版社/メーカー: 中央公論新社…

『暗夜』残雪

「夜はもう明けるの?」ぼくは兄に聞いた。 「まだわからんのか。今は……今は……ああ、やめておこう」 (「暗夜」) 「夜が明けるなんてことを考えさえしなければ、この家と折り合えるさ。夜は明けっこないのだ」(「帰り道」) 夜は明けない 誤解を恐れずに言…

『赤い高粱』莫言

[赤が泣く] Mo Yan 紅高粱家族 Hong GaoLiang JiaZu,1987. 赤い高粱 (岩波現代文庫)作者: 莫言,井口晃出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2003/12/17メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 54回この商品を含むブログ (22件) を見る 万物はすべて、人の血のにお…

『君のためなら千回でも』カーレド・ホッセイニ

[走り去る君は] Khaled Hosseini The Kite Runner,2003.君のためなら千回でも(上巻) (ハヤカワepi文庫)作者: カーレド・ホッセイニ,佐藤耕士出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2007/12/19メディア: ペーパーバック購入: 8人 クリック: 653回この商品を含む…

アフガニスタンを知る本

白水社「エクス・リブリス通信 Vol.5」を参考にまとめたもの。20世紀以降の文学が中心。 ■アフガニスタンを知る本 悲しみを聴く石 (EXLIBRIS)作者: アティークラヒーミー,Atiq Rahimi,関口涼子出版社/メーカー: 白水社発売日: 2009/10/01メディア: 単行本購…

『迷い鳥』ロビンドロナト・タゴール

[静寂の言葉] Rabindranath Tagore রবীন্দ্রনাথ ঠাকুর Stray Birds,1916.迷い鳥作者: ロビンドロナト・タゴール,Rabindranath Tagore,川名澄出版社/メーカー: 風媒社発売日: 2009/07/07メディア: 単行本 クリック: 20回この商品を含むブログ (3件) を見る ア…

『灰と土』アティーク・ラヒーミー

[頭蓋に焼きついた光景] Atiq Rahimi Khakestar-o khak,2000.灰と土作者: アティークラヒーミー,Atiq Rahimi,関口涼子出版社/メーカー: インスクリプト発売日: 2003/10/01メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 25回この商品を含むブログ (8件) を見る ときど…

『阿Q正伝/狂人日記』魯迅

[寂寞と喝破] Hōu Shùrén魯迅; 阿Q正伝, 1921. 狂人日記、1918.阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)作者: 魯迅,竹内好出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1981/02メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 56回この商品を含むブログ (56件) を見る故郷/阿Q…

『グローバリズム出づる処の殺人者より』アラヴィンド・アディガ

[とんだお笑いぐさだ!] Aravind Adiga The White Tiger ,2008.グローバリズム出づる処の殺人者より作者: アラヴィンドアディガ,Aravind Adiga,鈴木恵出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2009/02メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 32回この商品を含むブロ…

『黄泥街』残雪

[まみれる] CanXue 黄泥街 Huang Ni Jie,1983. 黄泥街作者: 残雪,近藤直子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 1992/11メディア: 単行本 クリック: 12回この商品を含むブログ (8件) を見る 「なんたる風だ、人の頭の中まで吹き散らかしおって、世界最後…

『観光』ラッタウット・ラープチャルーンサップ

[ガイジンさん、いらっしゃい] Rattawut Lapcharoensap SIGHTSEEING ,2006.観光 (ハヤカワepiブック・プラネット)作者: ラッタウット・ラープチャルーンサップ,古屋美登里出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2007/02/21メディア: 単行本購入: 3人 クリック: 8…

なじめない悲しみ|『ある放浪者の半生』V.S.ナイポール

[なじみきれない] .V.S.Naipaul HALF A LIFE , 2001.ある放浪者の半生作者: V.S.ナイポール,斎藤兆史出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2002/09/26メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 8回この商品を含むブログ (23件) を見る すべてが変な方向に進んでいく…

『停電の夜に』ジュンパ・ラヒリ

[人の心の距離の近さ、遠さ] Jhumpa Lahiri INTERPRETPR OF MALADIES , 1999.停電の夜に (新潮クレスト・ブックス)作者: ジュンパラヒリ,Jhumpa Lahiri,小川高義出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2000/08/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 42回この商品…