ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想

海外文学/世界文学/ガイブンの書評と感想ブログ。昔の名は「キリキリソテーにうってつけの日」

フランス文学

『ピラネージの黒い脳髄』マルグリット・ユルスナール|世界、この開かれた牢獄

「デンマークは牢屋だ」とハムレットがいう。「しからば世界も牢屋ですな」と気の利かぬローゼンクランツが言い返し、黒衣の王子をこの一度だけやりこめる。ピラネージがこの種の概念、囚人たちの宇宙という明確なヴィジョンをもっていたと想定すべきだろう…

『移動祝祭日』ヘミングウェイ

「もし、きみが、幸運にも、青年時代にパリに住んだとすれば、きみが残りの人生をどこで過ごそうとも、それはきみについてまわる。なぜなら、パリは移動祝祭日だからだ」 ーーアーネスト・ヘミングウェイ『移動祝祭日』 どこまでもついてくる祝祭 世の中には…

『ノートル=ダム・ド・パリ』ユゴー

…こうなるともう、ノートル=ダム大聖堂の鐘でもなければ、カジモドでもない。夢か、つむじ風か、嵐だ。音にまたがっためまいだ。…こんな並外れた人間がいたおかげで、大聖堂全体には、なにか生の息吹みたいなものが漂っていた。 ーーヴィクトル・ユゴー『ノ…

『HHhH プラハ、1942年』ローラン・ビネ

いったい何を根拠に、ある人物が、ある物語の主役であると判断するのだろうか? その人物に費やされたページ数によって? ——ローラン・ビネ『HHhH プラハ、1942年』 自分語りとアンチ歴史スパイ小説 「事実かどうかを1次情報まで戻って確認せよ、重要なこと…

『少年十字軍』マルセル・シュウォッブ

いつも同じ黄金の面をわれらに向けるあの月も、おそらく暗く残忍な別の面をもつのであろう。……けれども予はもはやこの世の表面など見たくない。暗いものに目を向けたいのだ。――マルセル・シュウォッブ「黄金仮面の王」 極彩色の幻影 思い出したのはクリムト…

『事の次第』サミュエル・ベケット

聞いたとおりにわたしは語るそれから死もし死がいつかは来るものならそれでかたづく死んでいく——サミュエル・ベケット『事の次第』 狂人の脊髄 これは奇書ですよ、といって手渡された。 一時期、探しまわっていたのだが、あまりに見つからないので、わたしの…

『さりながら』フィリップ・フォレスト

一茶はすでに世界についてすべてを知っていた。その悪意、その無尽蔵の美しさ。——フィリップ・フォレスト 喪失の水盤 この切実さはなにごとだろう。フォレストの文章を読みすすめるごと、そう思わずにはいられない。 日本の作家、俳句、写真家、都市について…

『ロクス・ソルス』レーモン・ルーセル

再び切子面の前に立った私たちは、緋色の軽い丸い玉が水中に落ち、ゆっくり沈んでゆくかと思うと、突然、肌がばら色で、毛のない例の動物が、それを通りすがりに飲みこむのを見た。カントレルは、この動物は、すっかり毛を抜き去った本物の猫で、コン=デク…

『イカロスの飛行』レーモン・クノー

イカロス ぼくの時代には、令嬢は青年に恋を打ち明けたりしなかったもんだが。 アデライード 近代小説にはそういうことも書いてありますわ。 イカロス ああ、ぼくは読者というより読まれる方なんで。——レーモン・クノー『イカロスの飛行』 空を目指した ウリ…

『ユビュ王』アルフレッド・ジャリ

ユビュ親父 そうかも知れん。だがわしは政府を変えちまったし、今後はすべての税金を二倍にふやし、指定された者はとくに三倍の税金を支払うよう、官報で通告したのじゃ。かかる方法によって、わしは速やかに大金持ちとなり、かくしてありとあらゆる者を皆殺…

『ブルターニュ幻想民話集』アナトール・ル=ブラーズ

プレスタンに住んでいた老人が、ある盤、ドゥーロン川の土手で一人の女と出会いました。お女は土手に腰かけ、川を見つめていました。過疎の村ランムールを去ってラニオンへ行く途中でした。 女は、「ねえ、おじいさん! 私を型に乗せてこの川を渡していただ…

『砂の都』マルセル・ブリヨン

[砂に埋もれた記憶] Marcel Brion La Ville de sable,1976.砂の都作者: マルセルブリヨン,Marcel Brion,村上光彦出版社/メーカー: 未知谷発売日: 2007/04/01メディア: 単行本 クリック: 16回この商品を含むブログ (4件) を見る わたし自身、母岩から砂を払…

『夜間飛行』サン=テグジュペリ

[影の中の一つの星] Antoine-Jean-Baptiste-Marie-Roger de Saint-Exupery Vol de Nuit,1931.夜間飛行 (新潮文庫)作者: サン=テグジュペリ,堀口大學出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1956/02/22メディア: 文庫購入: 8人 クリック: 75回この商品を含むブログ (…

『パルムの僧院』スタンダール

[愛を中心に、踊れ世界] Stendhal La Chartreuse de Parme,1839.パルムの僧院(上) (新潮文庫)作者: スタンダール,大岡昇平出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1951/02/19メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 11回この商品を含むブログ (12件) を見るパルムの…

『水いらず』サルトル

[生きるために死ぬことについて] Jean-Paul Charles Aymard Sartre Intimite, 1937.水いらず (新潮文庫)作者: サルトル,伊吹武彦,窪田啓作,白井浩司,中村真一郎出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1971/01/30メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 27回この商品を…

『異端教祖株式会社』ギョーム・アポリネール

[わたしは信じる] Guillaume Apollinaire, L'Heresiarque et Cie,1910.異端教祖株式会社作者: アポリネール,鈴木豊出版社/メーカー: 講談社発売日: 1974/09/15メディア: 文庫この商品を含むブログを見る かれは心の底で、このようにして、いつかカトリシスム…

『空の青み』ジョルジュ・バタイユ

[愛と死と] Georges Bataille Le Bleu du Ciel,空の青み (河出文庫)作者: ジョルジュ・バタイユ,伊東守男出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 2004/07/02メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 24回この商品を含むブログ (21件) を見る 暑かった。額の汗を拭…

『愚者が出てくる、城寨が見える』マンシェット

[たやすくない獲物] Jean Patrick Manshette O Dingos, O Chateaux!,1972.愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える (光文社古典新訳文庫)作者: ジャン=パトリックマンシェット,Jean‐Patrick Manchette,中条省平出版社/メーカー: 光文社発売日: 2009/01/0…

『調書』ル・クレジオ

[透徹した省察] Jean-Marie Gustave Le Clézio Le Procès-verbal, 1963. 調書作者: J.M.G.ル・クレジオ,J.M.G. Le Cl´ezio,豊崎光一出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/11メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 16回この商品を含むブログ (13件) を見る …

『巴里の憂鬱』ボードレール

[雲を愛す] Charles Pierre Baudelaire Le spleen de Paris ,1869.巴里の憂鬱 (新潮文庫)作者: ボードレール,三好達治出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1951/03/19メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 26回この商品を含むブログ (18件) を見る 19世紀フラン…

『カリギュラ』アルベール・カミュ

[不可能!] Albert Camus Caligula ,1944.アルベール・カミュ (1) カリギュラ (ハヤカワ演劇文庫 18)作者: アルベール・カミュ,Albert Camus,内田 樹(解説),岩切正一郎出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2008/09/25メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 42…

『人間ぎらい』モリエール

[みんな嫌いだ!] MolièreLe Misanthrope ou l'Atrabilaire amoureux、1666. 人間ぎらい (新潮文庫)作者: モリエール,内藤濯出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1952/03メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 20回この商品を含むブログ (33件) を見る 17世紀のフ…

『文体練習』レイモン・クノー

[文体の博覧会] Raymond Queneau Exercices de Style 1947.文体練習作者: レーモンクノー,Raymond Queneau,朝比奈弘治出版社/メーカー: 朝日出版社発売日: 1996/11メディア: 単行本購入: 15人 クリック: 532回この商品を含むブログ (145件) を見る文体練習 (…

『海に住む少女』シュペルヴィエル

[霧のような寂しさに] Jules Supervielle L'ENFANT DE LA HAUTE MER ,1931.海に住む少女 (光文社古典新訳文庫)作者: シュペルヴィエル,永田千奈出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/10/12メディア: 文庫購入: 4人 クリック: 38回この商品を含むブログ (82件…

『脂肪の塊・テリエ館』モーパッサン

[娼婦たち] Henri Ren〓 Albert Guy de Maupassant Boule de suif ,1884. La Maison Tellier, 1881. 脂肪の塊・テリエ館 (新潮文庫)作者: モーパッサン,青柳瑞穂出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1951/04メディア: 文庫購入: 2人 クリック: 9回この商品を含む…

『けものたち・死者の時』ピエール・ガスカール

[けものと人間] Pierre Gascar LES BETES , LE TEMPS DES MORTS , 1953. けものたち・死者の時 (岩波文庫)作者: ピエールガスカール,Pierre Gascar,渡辺一夫,佐藤朔,二宮敬出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2007/09/14メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 12…

『ゴドーを待ちながら』サミュエル・ベケット

[ひますぎる] Samuel Beckett EN ATTENDANT GODOT 1952. ゴドーを待ちながら (ベスト・オブ・ベケット)作者: サミュエルベケット,安堂信也,高橋康也出版社/メーカー: 白水社発売日: 2008/12/26メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 25回この商品を含むブログ…

『東方綺譚』ユルスナール

[東洋の青] Yourcenar Marguerite NOUVELLE ORIENTALES , 1983. 東方綺譚 (白水Uブックス (69))作者: マルグリット・ユルスナール,多田智満子出版社/メーカー: 白水社発売日: 1984/12メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 45回この商品を含むブログ (29件) …

『マダム・エドワルダ/目玉の話』ジョルジュ・バタイユ

[裸であることの不安] Georges Albert Maurice Victor Bataille MADAME EDWARDA ,1941. HISTOIRE DE L'OEIL ,1928. マダム・エドワルダ/目玉の話 (光文社古典新訳文庫)作者: バタイユ,中条省平出版社/メーカー: 光文社発売日: 2006/09/07メディア: 文庫購入:…

『編集室』ロジェ・グルニエ

[記者の話] Roger Grenier LA SALLE FR REDACTION , 1977.編集室 (白水uブックス―海外小説の誘惑)作者: ロジェグルニエ,Roger Grenier,須藤哲生出版社/メーカー: 白水社発売日: 2002/08メディア: 新書 クリック: 1回この商品を含むブログ (3件) を見る ……一…