ボヘミアの海岸線

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オーストリア文学

『地下 ある逃亡』トーマス・ベルンハルト|離れろ、離れろ、反対方向へ

休みになったら元気を回復する、とみんな思っているけれど、実は真空状態に置かれるのであって、その中で半ば気違いになる。それゆえみんな土曜の午後になると恐ろしく馬鹿げたことを思いつくのだが、すべてはいつも中途半端に終わるのだ。 ーートーマス・ベ…

『原因 一つの示唆』トーマス・ベルンハルト|美しき故郷への罵倒と情

世界的に有名なこれほどの美が、あれほど反人間的な気候風土と結びついているのは、致命的だ。そして、まさにこの場所、私が生まれついたこの死の土壌こそ、私の故郷なのであり、他の町や他の風景ではなく、この(死に至らしめる)町、この(死に至らしめる…

『凍』トーマス・ベルンハルト|人間の形をした液体窒素

きみは恐れているのか。違うって。どっちなんだ。人類をか。観念をか。 ――トーマス・ベルンハルト『凍』 人間の形をした液体窒素 『消去』を読んで以来、トーマス・ベルンハルトには、遠い異国に住んでいる親族に寄せるような、淡い親近感を抱いてきた。 世…

『ボリバル侯爵』レオ・ペルッツ|予告された自滅の記録

「…あの謎めいた意思をなんと呼べばいいんだ。俺たちすべてをこれほどまでに弄び、惨めにしているあれを。運命か、偶然か、それとも星辰の永遠の法則か?」 ーーレオ・ペルッツ『ボリバル侯爵』 予告された自滅の記録 戦いにおいて最も効率がよい勝利方法は…

『夜毎に石の橋の下で』レオ・ペルッツ

一同が静まったところで高徳のラビは告げた。汝らのうちに、姦通の罪を負って生きる女、呪われた一族、主によって滅ぼされた一族の子がいる。罪人に告ぐ、進み出で己が罪を告白し、主の裁きを受けるがよい。――レオ・ペルッツ『夜毎に石の橋の下で』 プラハの…

『ナペルス枢機卿』グスタフ・マイリンク

私たちがなしとげる行為には、それがいかなるものにもあれ、魔術的な、二重の意味があるのだ、と。私たちには、魔術的でないことは、何ひとつできない――。——グスタフ・マイリンク『ナペルス枢機卿』 おぞましき、この現世 真夏の日照りが続くさなかにマイリ…

『消去』トーマス・ベルンハルト|消してしまいたい、こんな思いは

私の頭に最終的に残っている唯一のものは、と私はガンベッティに言った、「消去」というタイトルだ。というのも私の報告は、そこに描写されたものを消去するために書かれるからだ。私がヴォルフスエックという名で理解しているすべて、ヴォルフスエックであ…

『ヴィトゲンシュタインの甥』トーマス・ベルンハルト

[ウィーンに生きた] Thomas Bernhard Wittgensteins Neffe , 1982.ヴィトゲンシュタインの甥作者: トーマスベルンハルト,岩下真好出版社/メーカー: 音楽之友社発売日: 1998/12/10メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (4件) を見る…