ボヘミアの海岸線

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アイルランド文学

『ミルクマン』アンナ・バーンズ| 前門のストーカー、後門の同調圧力

本の読み歩きとプラスチック爆弾、このあたりじゃどっちが普通だと思う? ――アンナ・バーンズ『ミルクマン』 『ミルクマン』を読んで、思わずうめいた。いったいなぜこれほどストレスフルでやばいもの――「同調圧力社会」と「ストーカー被害」――を1冊の中に詰…

『ケルトの神話』井村君江

「あなた方ケルト民族が、もっとも恐れるものは何でしょうか?」 巨大なたくましい体をした、ケルトの戦士たちはこう答えました。 「わたしたちは、どんな人間も恐れません。ただわたしたちが恐れるのは、空がわたしたちの上に落ちて来ないか、ということだ…

『男の事情 女の事情』ジョン・マクガハン

「これを忘れたんでね」とバーテンの無言の質問に答えて言った。その小さな素振りひとつひとつを演じることが、痛みを和らげてくれるかのようだった。——ジョン・マクガハン「僕の恋と傘」 誰にも事情はある アイルランドの苦みに刺されたい時期は、冬の底を…

『若い藝術家の肖像』ジェイムズ・ジョイス

そうだ! そうだ! そうなのだ! ——ジェイムズ・ジョイス『若い藝術家の肖像』 決定的な瞬間 どうしようもなく世界と折り合いがつかないなら、世界と自分どちらがまちがっているのかがわからないなら、『若い藝術家の肖像』を読むといいかもしれない。 本書…

『聖母の贈り物』ウィリアム・トレヴァー

雨だってたくさん降る土地柄なのだが、この土地をこの土地らしくしていたのは、雨よりも霜よりも、とにかく風だった。 ーーウィリアム・トレヴァー「丘を耕す独り身の男たち」 受け継がれる トレヴァーは「過去の重さ」を描く作家だと思う。人がなにかを思い…

『アラン島』J.M.シング

石積みのてっぺんから見渡すとほとんどすべての方角に海原が見え、北と南には海の彼方に連なる山並みが見える。見下ろせば東の方に集落があり、家々のまわりで立ち働いている赤い人影が見える。ときどき、会話や島の古い歌のきれはしが風に吹きあげられて、…

『アイルランド・ストーリーズ』ウィリアム・トレヴァー

[ああ、アイルランド] William Trevor Irerand Stories.アイルランド・ストーリーズ作者: ウィリアム・トレヴァー,栩木伸明出版社/メーカー: 国書刊行会発売日: 2010/08/27メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 42回この商品を含むブログ (21件) を見る その…

『密会』ウィリアム・トレヴァー

[愛は沈黙の裏に] William Trevor A Bit on the Side,2004.密会 (新潮クレスト・ブックス)作者: ウィリアムトレヴァー,William Trevor,中野恵津子出版社/メーカー: 新潮社発売日: 2008/03/01メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 32回この商品を含むブログ (…

『青い野を歩く』クレア・キーガン

人生のある時点で、ふたりの人間が同じことを望むことはまずない。人として生きるなかで、ときにそれはなによりもつらい。 だれかに触れられたのは3年ぶりで、他人の手の優しさに、彼ははっとする。どうして、やさしさのほうが怪我よりも人を無力にするのだ…

『ゴドーを待ちながら』サミュエル・ベケット

[ひますぎる] Samuel Beckett EN ATTENDANT GODOT 1952. ゴドーを待ちながら (ベスト・オブ・ベケット)作者: サミュエルベケット,安堂信也,高橋康也出版社/メーカー: 白水社発売日: 2008/12/26メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 25回この商品を含むブログ…