ボヘミアの海岸線

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日本文学

『わたしの日付変更線』ジェフリー・アングルス|言語の境界に立つ

書き終えた行の安全圏から 何もない空白へ飛び立つ改行 −−ジェフリー・アングルス『わたしの日付変更線』「リターンの用法」 ジェフリー・アングルスは、英語を母国語として、日本語で詩を書く詩人だ。 ふたつの国、ふたつの言語の境界に立つ詩人の言葉は、…

『イタリアの詩人たち』須賀敦子|心に根を張った5人の詩人たち

おおよそ死ほど、イタリアの芸術で重要な位置を占めるテーマは他にないだろう。この土地において、死は、単なる観念的な生の終点でもなければ、やせ細った性の貧弱などではさらにない。生の歓喜に満ち溢れればあふれるほど、イタリア人は、自分たちの足につ…

『須賀敦子のヴェネツィア』大竹昭子|悲しみとなぐさめの島

ヴェネツィアは、なによりもまず私をなぐさめてくれる島だった。 ーー大竹昭子 『須賀敦子のヴェネツィア』 イルマ・ラクーザ『ラングザマー』、アンリ・ドレニエ『ヴェネチア風物誌』と続けてヴェネツィアにまつわる本を読んだので、さらにもう一歩、ヴェネ…

『河岸忘日抄』堀江敏幸

遭難の作法 ふと、彼は思う。自分は、まだ待機していたい。待っていたい。だが、なにを待つのか?——堀江敏幸『河岸忘日抄』 霧の深い夜には、たいそう派手な失恋をしてなんの知らせもよこさずに遠い異国へふつりと消えた、気狂いの友人を思い出す。失踪した…

『さりながら』フィリップ・フォレスト

一茶はすでに世界についてすべてを知っていた。その悪意、その無尽蔵の美しさ。——フィリップ・フォレスト 喪失の水盤 この切実さはなにごとだろう。フォレストの文章を読みすすめるごと、そう思わずにはいられない。 日本の作家、俳句、写真家、都市について…

日本が読みたくなった

ふと、日本が読みたくなった。ひぐらしが鳴きはじめる盆の季節には、どうにも日本が読みたくなる(日本文学ではなく、あくまで日本が)。本棚をあさるのは面倒くさかったので、あちこちに散乱している本の山どもの中から寝ぼけまなこでセレクト。 東京日記 …

『短篇コレクションI』池澤夏樹編

[世界という名のタペストリ] Natsuki Ikezawa edited Colleted Stories I,2010.短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)作者:コルタサル他発売日: 2010/07/12メディア: 単行本 世界中の文学から短編を集めたコレクション第1弾。本書は、…

『井伏鱒二全詩集』井伏鱒二

[サヨナラダケガ]井伏鱒二全詩集 (岩波文庫)作者:井伏 鱒二出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2004/07/16メディア: 文庫 井伏鱒二の『厄除け詩集』は、学生にとって災厄である。井伏の言葉は、ぐるぐるする心を鮮やかに刺してくる。太宰、ドストエフスキーあ…

『海潮音』上田敏

[謡う日本語]海潮音―上田敏訳詩集 (新潮文庫)作者:出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1952/12/02メディア: 文庫 上田敏が1905年に出版した訳詩集。明治時代の訳者は、日本の詩歌を踏襲した訳文を書いた。海外の作品でありながら、れっきとした日本の作品でも…