ボヘミアの海岸線

海外文学を読んで感想を書く

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

『勝手に生きろ!』チャールズ・ブコウスキー|丸出しでまるごとそこにいる男

「あんた、まるごとそこにいるのね」「どういう意味?」「だからさ、あんたみたいな人、会ったことないわよ」「そう?」「他の人は10%か20%しかないの。あんたはまるごと、全部のあんたがそこにいるの。大きな違いよ」 ーーチャールズ・ブコウスキー『勝手…

『昼の家、夜の家』オルガ・トカルチュク|われら人類は胞子のように流れる

ガイドブックには、食べられるものと、そうでないものとの違いが、事細かに書いてある。よいキノコと、悪いキノコ。キノコを、美しいか、醜いか、いいにおいがするか、くさいのか、手ざわりがいいか、悪いか、罪に導くキノコか、罪を赦すキノコか、そうやっ…

『サブリナ』ニック・ドルナソ丨失踪事件、ソーシャルメディア、陰謀論

みんなに怒りを感じてしまう。 誰に? みんなだ。自分も含めて。 ーーニック・ドルナソ『サブリナ』 人間社会が発する耐えがたいノイズを、頭が割れるようなレベルまで増幅させたような書物だ。ほとんど表情がない「棒読み演技」みたいな絵柄でありながら、…

『11の物語』パトリシア・ハイスミス|嫌ギア全開で突き進め

……あたしがほんとに仕合わせになるのにたらないものといったら、あと一つ。いざというときにあたしがどんなに役に立つか証明してみせればいいだけだ。 ーーパトリシア・ハイスミス『11の物語』「ヒロイン」 保育園に生き物コーナーができた。生き物コーナー…

『ずっとお城で暮らしてる』シャーリイ・ジャクスン|悪意まみれの世界と戦う憎悪少女

みんな死んじゃえばいいのに。そしてあたしが死体の上を歩いているならすてきなのに。 ーーシャーリイ・ジャクスン 『ずっとお城で暮らしてる』 『ずっとお城で暮らしてる』のイメージは、パステルカラーの砂糖菓子、薔薇の花びらで飾られた、宝石のように美…

『ホール』ピョン・ヘヨン|人生の真ん中にあいた大穴

ずっと前から、ひょっとすると人生というものがわかりかけた気がした頃から、生を営んできたと同時に、失ってきたのかもしれない。時々こんな気分になった。何事も充実しているが、しきりに何かを失っているような。 ーーピョン・ヘヨン『ホール』 「穴」の…