『愚者が出てくる、城寨が見える』マンシェット
[たやすくない獲物]
Jean Patrick Manshette O Dingos, O Chateaux!,1972.
愚者(あほ)が出てくる、城寨(おしろ)が見える (光文社古典新訳文庫)
- 作者: ジャン=パトリックマンシェット,Jean‐Patrick Manchette,中条省平
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/01/08
- メディア: 文庫
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「なんていかれた女なんだ!」「本当にな」
誘拐で被害者としてうってつけなのは、女性と子供であろう。犯罪者が頑強な男ならなおのこと、女性や子供は、腕力では男にかなわずに連れ去られる。たやすい獲物としての主人公ジュリーと金持ちの甥の少年ぺテール。しかしこの物語では、獲物はちっともたやすくない。むしろ、こいつらがもっとも手強い。
フランスの「ロマン・ノワール=暗黒小説」がどんなものかと思って読み始めた。ハードボイルド、硬派な文体の犯罪小説の体裁だが、なぜか出てくる人間が全員いかれている。子守として雇われたジュリーは、精神病院から出てきた警察嫌い。ギャングにさらわれて逃げるのだが、その道程中は、ギャングよりやっていることがひどい。いったい何人殺したんだ、このお嬢さん。キレっぷりがすごすぎる。一方で、殺し屋は胃痛持ちで、銃を握るたびに胃が痛む。逆にこちらは、殺し屋なんかやらずに、農園やっていた方がよさそう。
狂いっぷりのイメージとしては、こんな感じ↓。
ジュリー(子守の女性)>慈善家>建築家=殺し屋>ギャングの下っ端>子供
と思ったら、実は子供の位置が、最後で変わる。
小説のイメージは、題名を見ると分かるかもしれない。本題の直訳は『おお愚者よ!おお城よ!』。愚者というのは全員で、城というのはジュリーたちが逃げ込む迷宮のような家のことを指す。著者の執筆中は、『たやすい獲物』という題名だったらしい。どこがたやすいんだどこが、という、殺し屋のつっこみが聞こえてきそうだ。
最初から最後まで、読者はある一定の距離をとらされる。犯罪被害者は、同情しようにもしきれない、犯罪者組の方がむしろあわれになってくる。かなり戯画っぽくエッジをきかせたドタバタ話という印象。映画にしたらおもしろいだろう。
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