『巴里の憂鬱』ボードレール
[雲を愛す]
Charles Pierre Baudelaire Le spleen de Paris ,1869.
- 作者:ボードレール
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1951/03/19
- メディア: 文庫
19世紀フランス詩人による、散文詩。アンニュイという言葉が似合うボードレールの詩と、三好達治の漢語めいた美文が合わさって、じつにクラシックな仕上がりになっている。
「パリの憂鬱」ではなく、「巴里の憂鬱」である。このことからも分かる通り、本書にはほとんどカタカナが出てこない。「瓦斯灯」とか「硝子」はまだしも、「麺麭」「恰も」「阿諛」「大廈高楼」あたりになると、ちょっとした漢字検定のよう。「阿諛」なんて言葉、はじめて見た。
以下、気に入ったものの一口感想。
「異人さん」:まずはこれから。これ立ち読んで気になったら、買っても損はないと思う。
「けしからぬ硝子屋」:これは印象的だった。ラストの映像美がやばい。けしからんのはお前だ、というつっこみは不在。
「時計」:「中国人は猫の眼のうちに時間を読む」。この一文がいい。
「スープと雲」:「異人さん」と対で読むと、ボードレールの美意識の一端が見える。
「貧民を撲殺しよう」:すごいタイトル。ドストエフスキーの「罪と罰」の発想。
「寛大なる賭博者」:あの有名な悪い人とおしゃべり。
「どこへでも此世の外へ」:「この人生は一の病院であり、そこでは各々の病人が、ただ絶えず寝台を代えたいと願っている」という名高い一文がある。
物語に酔うのも魅力的だが、言葉に酔ってみるのもまた良し。ちょっと読みにくい部分もあるが、海外文学&日本語大好き、という人にはおすすめ。
recommend:
日本語と訳者の絶妙なるコラボレーション。海外文学なのに日本文学。
上田敏『海潮音』…ヴェルレーヌ、マラルメ、ボードレール。フランスの同時代の作品を読んでみる。もはや上田作品だけど、日本語がすばらしい。
ボードレール『悪の華』…堀口大學訳。こちらも名訳と誉れ高い。
井伏鱒二『厄除け詩集』…こちらは中国詩。「さよならだけが人生だ」という、有名な詩はこちら。(知っている人の半分は太宰ファンなのでは)