『阿Q正伝/狂人日記』魯迅
[寂寞と喝破]
Hōu Shùrén魯迅; 阿Q正伝, 1921. 狂人日記、1918.
- 作者: 魯迅,竹内好
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1981/02
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- 作者: 魯迅,藤井省三
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/04/09
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魯迅と聞くと、高校生の頃を思い出す。
文学史で必ず出てくる魯迅、そしていつも出てくる「阿Qって何?」という疑問。名前がゆかいだからといって手に取ると、ひどいことになる。全然ゆかいな話ではない。
それでもなんとなく分かるのは「日本人とはルーツが違う文学なんだなあ」ということ。日本の共同体が「出る杭を打つ」なら、中国の共同体は「出る杭を投げ捨てる」ような。同じアジアなんだけど、この違いはなんだろうと思わず考える。
というわけで、魯迅再読。大学1年以来である。今読んでみると、魯迅ってこんな辛らつだったけ、とか思う。西洋啓蒙思想への傾倒とか、中国の「革命」志向とか、祖国が大事だけど、嫌いなところもあるよ!という雰囲気がにじみ出ている。日本の文明開化の「西洋に習え!でも伝統は大事にしろ!」という動きと似ている部分もあるが、魯迅の方が荒削りで批判的に「喝破」しているような気がする。
短すぎて「ん?もう終わり?」と思うような作品も多かったが、著名な作品はやはり印象に残る。以下、気になった作品の一言レビュー。
「狂人日記」:
人を食うのが私の兄貴だ!
私は人食い人間の弟だ!
私自身が人に食われても、それでもやっぱい人食い人間の弟だ!
精神疾患にかかった男の日記を公開するという、いわゆるメタ文学の形をとる短篇。強迫神経症の人の精神傾向を、わりとストレートにトレースしていると思う。「四千年の人食いの歴史を持つ私!」という叫びは、狂ったものか、それとも正当なものか?彼は治って任官しているっていうけれど、嘘だろうなあ。
「故郷」:
故郷に戻ってみたけれど、かつてのおさななじみは、自分のことを「旦那様!」と呼ぶ…。身分制度、農民根性にまつわる齟齬と、失ったものへの哀悼について。かつてのおさななじみ閏土(ルントウ)が、金持ちとなった主人公の心の中で、絵画のように思い出されるシーンが秀逸。陶器の絵のような美しさがある。
「阿Q正伝」:
カフカ的不条理を、中国農村で実践したような話。見栄っぱりで嘘つき、政治のことなど何も知らない無学の阿Q。立派とはほど遠い、友達にもあまりなりたくない人物だが、まったく知らない間に入った「革命党」の罪で、処刑される。おそらく阿Qのように、たいした哲学がなくて革命に参加し、どうしようもない罪を問われて、いくつもの命が処刑台に消えたのだろう。
思想と行動は必ずしも一致しない。どうしてものっぴきならない状況で人を殺す人もいれば、女の子にもてたくて、人殺しをする人間だっている。
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