渦の真ん中に立つ|『供述によるとペレイラは…』アントニオ・タブッキ
[渦の真ん中に立つ]
Antonio Tabucchi SOSRIENE PEREIRA. UNA TERTMONIANZA , 1994.
供述によるとペレイラは… (白水Uブックス―海外小説の誘惑)
- 作者: アントニオタブッキ,Antonio Tabucchi,須賀敦子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 2000/08/01
- メディア: 新書
- 購入: 2人 クリック: 22回
- この商品を含むブログ (25件) を見る
イタリアの作家、タブッキの代表作。「供述によると、ペレイラは・・・」という書き出しが印象的な作品。タブッキはどこか幻想的な作風を持つが、この物語はどちらかといえば、ファシズムや社会主義に立ち向かう姿勢が描かれる。
タブッキの中でも異色作。彼はイタリア生まれだが、ポルトガルをこよなく愛した。本作も、舞台は1938年のファシズムの影が忍び寄るリスボンである。
夕刊紙の文芸欄を担当している記者ペレイラが、助手に雇った青年にまつわる、政治的な厄介ごとに巻き込まれる話。
たとえば、言論弾圧下にある言論家には、大別すればだいたい次のようなものになると思う。 言論弾圧を苦々しく思いながらもそれに服従する(せざるをえない)人と、あまり考えずにその中で生きている人、そして数少ないながら、言論弾圧に真っ向から立ち向かう人。
主人公はあきらかに、あまり考えていない人だった。 政治の話はカフェの給仕に聞く始末、それについて意見を言われても「僕の仕事は文芸だから」と一蹴してしまうような。
その彼がなぜ、反政府運動に巻き込まれることになったのか。 小説の大筋はここにあるが、自分が意識、理解する前に、すでに道を歩き始めることもあるという、人生の不可思議さがここでは語られている。 うだるような暑さと砂糖一杯のレモネードと、ペレイラの奇妙なまでの静かさが対比しておもしろい。
巻き込まれているという実感は、渦のど真ん中にきた時にやってくる。振り返ってみれば、確かにそこに兆候はあった。静かにあつい空気が、感じ取れる一冊。
recommend:
クッツェー『夷狄を待ちながら』 (気がつけば巻き込まれている話。こっちはもっとえぐい)
フェルナンド・ペソア『ポルトガルの海』 (タブッキが愛する作家の作品)