ガイブン初心者にオススメする海外文学・ハードカバー編
溶けていく左足を回収しながらほうほうのていで巣に帰り、ぐうたらと引きこもって蜜酒を飲んでいたら、今年はまだ夏休みの自由研究をしていないと気がついた。そういうわけで、以前に書いた「ガイブン初心者にオススメする海外文学・文庫編」のハードカバー編である。
なぜわたしは海外文学のハードカバーを読むか
ばかなの? というぐらい当たり前のことを書くが、ハードカバーは文庫に比べて高い。特に翻訳小説は、小数部数、初版どまりですぐ絶版、翻訳権と翻訳料の支払いエトセトラという五十重苦を背負っているため、最低でも2000円、平均で3000円ほどする。
※五十重苦
よく訓練されたガイブン勢は、名菓ヒュアキントスまんじゅうのために5000円、古本屋で見つけたら1週間の食費を奉納して確保すべしと言われていたマルセル・シュオッブの復刊全集に1万5000円など、ガイブン租(国書刊行税)・庸(白水税)・調(作品社税)を喜んで支払うが、彼らがいう「安いよ! お得だよ!」は、ガイブン国(北欧諸国に匹敵する)物価水準なので信じてはいけない。
正直なところ、ちょっと興味がある勢はまず文庫からいくのが、お手軽でいいと思う。だが、文庫沼は限られている。ほぼすべての海外文学はハードカバーで刊行され、運がよければ文庫化される。ハードカバー沼のみに存在するすばらしい書物はたくさんある。
なぜわたしが資金と時間をかけて満身創痍になってまで読むのかといえば、これらの本はわれわれの想像力を超えた世界、驚異、深淵を見せてくれるからだ。手を伸ばさなければ知らない驚異の世界がハッピースマイルの顎を開けて待っている。まずは文庫、そしてさらにおもしろいと思ったら、ぜひハードカバー沼にまで足をつけてみてほしい。こっちの沼は甘いよ。
さて、いつもどおり前置きが長くなったが、本編である。ハードカバー編は、文庫編の基準を踏襲して選んだ。
- すぐに手に入る(絶版でない)※2015年8月現在
- 2000円-3000円台(ガイブン国基準で安い)
- 訳がわりと新しい(読みやすい)
- 長すぎない
- 本ブログで☆405をつけた、わたしが好きな本
社畜クラスタ必読

- 作者: 柴田元幸
- 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
- 発売日: 2013/10/05
- メディア: 単行本
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- ストーリー性:☆☆☆☆ 日本語の読みやすさ:☆☆☆☆☆ 明るさ:☆☆☆ 出社拒否度:☆☆☆☆☆
- 『代書人バートルビー』ハーマン・メルヴィル - ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想
- 『ウェイクフィールド』ナサニエル・ホーソーン - ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想
フランス版コピペ改変

- 作者: レーモン・クノー,松島征
- 出版社/メーカー: 水声社
- 発売日: 2012/09/22
- メディア: 単行本
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フランス文学。宇宙人にアブダクトされても「ウリポ!」とあいさつすればどうにかなるという都市伝説を持つ、あの伝説的団体「ウリポ」の作家、レーモン・クノーによる抱腹絶倒の文体練習。「バスの中で見かけた若者を、2時間後に別の場所でまた見かける」という実につまらない文章を99の文体で書くとどうなるかといえば、もうたまらなくおもしろい。「主観的」「客観的」から「虹色」「植物」「種の記述」まで、徹頭徹尾まじめにふざけている。コピペ改変が好きな日本人はきっと大好きだと思うんだ。Kindle版もあるので、電子書籍派もぜひ。
- ストーリー性:☆ 日本語の読みやすさ:∞(計測不能) 明るさ:☆☆☆☆☆ 自分でも文体練習をしてみたくなる度:☆☆☆☆
- 『文体練習』レイモン・クノー - ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想
究極的に絶望的な、永遠の愛

- 作者: アドルフォビオイ=カサーレス,Adolfo Bioy Casares,清水徹,牛島信明
- 出版社/メーカー: 水声社
- 発売日: 2008/10
- メディア: 単行本
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アルゼンチン文学。ガイブンにしては驚異の1000円台。生物型図書館ボルヘスが「完璧な小説」と呼んだ。SF小説として読むと、こなれた現代読者は「これのなにがすごいのか」と思うかもしれないけれど、本書のすごさは暴かれる仕掛けよりもむしろその動機にある。主人公が最後にとった方法は、究極的に永遠の愛だが、究極的に絶望的でもある。永遠の愛を口で誓うことはできるけれど、実際に実現するとしたら、これほどの狂気を経なければならないのか。水声社はAmazonに卸していないのでこのリンクからは購入できないが、絶版ではないので、別の書店で探してみてほしい。
- ストーリー性:☆☆☆☆ 日本語の読みやすさ:☆☆☆☆ 明るさ:☆☆ 恋愛は狂気度:☆☆☆☆☆
- 『モレルの発明』アドルフォ・ビオイ=カサーレス - ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想
007を地でいくこの男

- 作者: リシャルト・カプシチンスキ,工藤幸雄,阿部優子,武井摩利
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/08/11
- メディア: 単行本
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- ストーリー性:☆☆☆ 日本語の読みやすさ:☆☆☆☆ 明るさ:☆☆☆☆ 009度:☆☆☆☆☆
- 『黒檀』リシャルト・カプシチンスキ - ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想
ひりつく恋愛と人生

- 作者: ウィリアムトレヴァー,William Trevor,中野恵津子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/03/01
- メディア: 単行本
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彼らは愛を抱きつつ、離れてゆき、お互いから立ち去った。未来は、今2人が思っているほど暗いものではないと気づかずに。
アイルランド文学。今年からガイブン勢はめでたくトレヴァー税を納税することになった。国書刊行会が「ウィリアム・トレヴァー・コレクション」を始めたからである。現代短編作家のうち最高峰のひとりと誉れ高いトレヴァーは、10代よりも20代、20代よりも30代と、年をとるごとに染みてくる。年を取るにつれ、人生は夢に見たほどきらびやかでないことがわかってくる。それでも期待し、失望し、たまにちょっとだけ救われる。過去にひりつく恋愛経験がある人は悶絶するタイプの作家である。おすすめは恋愛の愚かさと痛みを描いた「密会」、最後の数行が鮮烈な印象を残す「ローズは泣いた」。
- ストーリー性:☆☆☆☆ 日本語の読みやすさ:☆☆☆ 明るさ:☆☆ 人生は苦い度:☆☆☆☆☆
- 『密会』ウィリアム・トレヴァー - ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想
- 割り切れない愛を描いた海外文学・短編リスト - ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想
51年の片思いという狂気

- 作者: ガブリエル・ガルシア=マルケス,木村榮一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2006/10/28
- メディア: 単行本
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- ストーリー性:☆☆☆☆☆ 日本語の読みやすさ:☆☆☆☆ 明るさ:☆☆☆ ラストの熱病度:☆☆☆☆☆
- 『コレラの時代の愛』ガブリエル・ガルシア=マルケス - ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想
番外
はずれなしの短編小説

- 作者: ドリス・レッシング,青柳伸子
- 出版社/メーカー: 作品社
- 発売日: 2008/04/30
- メディア: 単行本
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- ストーリー性:☆☆☆☆☆ 日本語の読みやすさ:☆☆☆☆ 明るさ:☆ ラストの熱病度:☆☆☆☆☆
- 『老首長の国 ドリス・レッシング アフリカ小説集』ドリス・レッシング - ボヘミアの海岸線 - 海外文学の感想