『昨日』アゴタ・クリストフ
[亡命者の言葉]
Agota Kristof Hier ,1995.
- 作者: アゴタクリストフ,Agota Kristof,堀茂樹
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2006/05/01
- メディア: 文庫
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そこにあったのは、自分の家を離れ、自分の国を離れたものたちの道だった。その道はどこへも通じていなかった。
ハンガリーの亡命作家が描く、祖国を失った男の物語。この本はフランス語で書かれた。アゴタ自身が亡命した先の国の言語である。そのせいか、文体は簡潔で、小さい積み木を積み上げていくような、淡々としたもの悲しさがある。
娼婦の息子として生まれたトビアスは、人を刺した後に名前を変え、国境を越えた。国境を越える場面は、「悪童日記」3部作にも通じるところがある。異国で、息が詰まるような灰色の工場で働くトビアス。しかし彼には、リーヌという少女がいた。もっとも、彼女には夢の中でしか会えないが。
世界描写がひどく美しい。雨と風と土があって、リーヌのことを考える時につかの間輝いては、また色を失っていく。最後の1ページのそっけなさが、また重い。心の中の何かがすこんと落っこちるような、悲しいのか虚しいのかわからない不思議な余韻を残していく。
何冊もの本を書いても、すべてが大きな1冊の物語になる作家というのがいて、おそらくアゴタ・クリストフもその1人なのだろう。本書は「悪童日記」3部作を彷彿とさせる場面がいくつもあった。しかし「悪童日記」シリーズが鮮烈すぎて、あまりこちらは印象に残らなかった。残念。
アゴタ・クリストフの作品レビュー:
「悪童日記」
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