ボヘミアの海岸線

海外文学を読んで感想を書くブログ

今年に読んでよかった&思い出深い海外文学3冊

小澤みゆきさん(@miyayuki777)主催の「文芸アドベントカレンダー」に登録して、なにを書こうかなーと考えながらぼんやり生きていたら、「今年に読んでよかった/印象深かった文芸作品を紹介する」とテーマが決められていたことに昨日、気がついた。

自分が主催する「海外文学アドベントカレンダー」が「海外文学のアトモスフィアを感じるエントリ」とゆるいテーマに設定していたため、なんとなく「文芸のアトモスフィアを感じるエントリ」がテーマだと思いこんでいた。よく読まずに応募する癖が今回も遺憾なく発揮されて大変遺憾である。

とはいえ、テーマがきっちり決められていると、悩まなくてよい。過去のことは水に流そう。そんなわけで、「今年に読んでよかった&思い出深い海外文学3冊」。

 

ロベルト・ボラーニョ『2666』

2666

2666

 

 

2019年から分厚い海外文学=鈍器を読む「海外文学読書会 鈍器部」をつくった。読書会といっても年に1回の実施で、2019年は『重力の虹』読書会、2020年は『2666』読書会をやった。『2666』読書会を開催したのは2月ごろで、このころはまだリアル読書会ができていた。そういう意味では、とても思い出深い読書会である。

さて『2666』は、失踪した謎の作家アルチンボルディという「空白」と、女が絶えず失踪して犯されて殺されるメキシコ国境地帯の町サンタテレサという「爆心地」を描いた小説だ。失踪した作家の謎を追う若き文芸批評家たち、女たちが失踪する謎を追うジャーナリストたちなど、「空白」を追う人たちとともに読者はじわじわとメキシコ国境地帯に近づいていき、いきなり爆心地に放りこまれる。

本書には5つの章があり、それぞれ中心人物が違い、プロットや書き方もすべて違っている。もはやそれぞれが独立した小説のように見えるが、かすかな点で章がつながっている。読書会では「どの章が好きか」という話でたいへん盛り上がり、人によって好きな章と好きポイントが違っていて、おもしろかった。私は恋愛のごたごたがしょうもない「批評家たちの部」と圧巻である「犯罪の部」が好き。

 

カルロス・フエンテス『アルテミオ・クルスの死』

アルテミオ・クルスの死 (岩波文庫)

アルテミオ・クルスの死 (岩波文庫)

 

 

カルロス・フエンテス『アルテミオ・クルスの死』は、オンライン読書会で参加した。傑作だと聞いてはいたものの、「メキシコ革命で成り上がった金持ちの老人アルテミオ・クルスの人生譚」という、あまりおもしろくなさそうなプロットだったので、つい積読していた。

実際に「性格がねじまがった金持ちのじいさんが死ぬ話」であることはまちがいないのだが、これがすさまじくおもしろい。おもしろくさせているのは語りの手法だ。「一人称+現在形」「二人称+未来形」「三人称+過去形」と語りのスタイルをぐるぐると変えていく。とりわけ圧巻なのが、二人称の語りである。「お前は選ぶだろう」「お前は考えるだろう」と予言めいた声で語る声は、クルスに向かって繰り返し「選択肢を選びとる」ことを語る。クルスが人生の岐路において、クルスがなにを選び、なにを選ばなかったのか、富と権力と命を得たかわりに、なにを失ったのかが明らかになっていく。

クルスに限らず人間は、人生の選択肢をどうにか選びとることはできても、「なにを選ばなかったのか」を知ることはできない。だが<お前>と呼ぶ声は知っている。「国の激動の歴史+個人の激動の人生」という王道の組み合わせでここまでできるのか、と驚かされた。最後の一文は、これしかないと思わせる一文で、最後まですごい。

 

 カーソン・マッカラーズ『心は孤独な狩人』

心は孤独な狩人

心は孤独な狩人

 

 南部文学の名作と呼ばれながらも長らく絶版だった『心は孤独な狩人』が、まさかの村上春樹訳で出た時は、けっこうびっくりした。というのも、これほど有名な古典なのに絶版して久しく、話題にもならないので、「唖」という言葉が超頻出するといった現代的な理由で復刊が難しいのか? と考えていたからだ。帯に「村上春樹が最後にとっておいた1冊」と書いてあり、ハルキがいちばん好きなオカズを最後に残すタイプだとわかった。訳してくれてサンキュー、でももっと早くてもよかったよ!

 『心は孤独な狩人』は、「自分の理解者」を求める人間の壮絶なすれ違いを描いた「全員が片思い小説(恋愛感情をともなわない)」だ。

聾唖の白人男性シンガーにたいして、4人の老若男女がそれぞれ訪れて、自分の心を語りまくる。言葉が話せないシンガーは、静かにほほえみ、ゆっくりとうなづいてくれるから、誰もが彼こそが「自分の理解者」だと思う。しかし、シンガーの理解者はいるのだろうか?

『心は孤独な狩人』は、人間という生物が絶対的に逃れられない「さびしさ」を描いていると思う。どれほど会話しても、どれほどソーシャルメディアでつながっても、どれほど技術が発達しても、私たちはいまだに自分の心を他者と共有しあうことはできない。それでも人はつながろうとするし、「自分の理解者」を求めようとする。「人がたくさんいても、みんな孤独」を描いたすばらしくえぐられる作品。

 

終わりに

海外文学の感想を書くブログを12年ぐらい続けているわりに、「今年に読んでよかった本」といった年間まとめブログをあまり書いたことがなかった。自分のブログに最後に書いたのはなんと9年前だった。こういう機会がなければきっと今年も書かないままだったと思う。参加してよかった。

アドベントカレンダー以外でも、今年は『本の雑誌』で新刊書評連載を始めたり、青山ブックセンターで「アメリカ大統領選挙の支持地盤で読む、アメリカ文学リスト」のブックフェアを組んでもらったりと、いろいろ新しいことをやってみて楽しかった。

海外文学アドベントカレンダーも、文芸アドベントカレンダーと同じように12月1日から25日まで毎日更新しているので、こちらもよければどうぞ。