ボヘミアの海岸線

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アメリカ大統領選挙の支持地盤で読む、アメリカ文学リスト

2020年アメリカ大統領選挙は激戦だった。2016年大統領選挙以降、世界中で、共和党と民主党それぞれを支持する「支持州」と「支持層」に注目が集まったように思う。

アメリカの大統領選挙は、人口ごとに選挙人数が割り振られ、州ごとにどちらかの政党を選ぶ「勝者総取り方式」が大半だ。そして州ごとにどちらかの政党を選ぶ傾向があり、この傾向は「土地」と「社会構成」を反映するため、多くのニュースやエッセイが問いを投げかける。

各政党の支持地盤はどんな地域か、どんな歴史があるのか、どんな人たちが住んでいるのか? 

この問いにたいする論考やエッセイ、書籍はすでにたくさんあるが、「アメリカ文学」もこの問いにたいして答えのひとつを持っている、と思う。

文学は、土地と社会と人によって育まれる。「どんな人たちなのか」「その人たちが生きる土地はどんな場所か」「その土地はどんな歴史を持っているのか」を知るには、うってつけだ。

そんなわけで、各政党それぞれの支持地盤ごとに「アメリカ文学リスト」をつくってみた。

方法

アメリカを下記3つに分類し、それぞれの地域を舞台とした小説をまとめた。作者の出身地ではなく、小説の舞台で選んでいる。「出身地=小説の舞台」もある。

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  • レッド・ステート:共和党を支持する傾向の州
  • ブルー・ステート:民主党を支持する傾向の州
  • スウィング・ステート:両方の支持が拮抗している州、激戦州、パープル・ステート

政治傾向は、21世紀以降の傾向で分類している。「州」で分類したのは、重複なくわけられるためだ。(社会構成は、性別、人種、経済、教育などいくつも要素があるので分類しづらい)。

州の中でも都市(民主党)と地方(共和党)では投票傾向に差がでるが、これまた分類が難しくなるし、州ごとに投票傾向があること、ニュースが州ごとに報道していること、多くの人が州単位の色分け地図を見慣れていることから、州単位でまとめている。

なお、このリストで紹介する文学は、あくまで「風土、文化、住む人々の声」を知るためのもので、作者の政治思想とは関係ないし、政治について語っている小説でもない。

また、明確な場所がわからないアメリカ文学、ちょっと出てくるけれどメイン舞台でない小説(メルヴィル『白鯨』におけるマサチューセッツ州ナンタケットなど)は対象外にしている。

 

レッド・ステート(共和党の支持地盤)

レッド・ステートは、地方、内陸側に多い。面積が広いため、地図で見るとレッド・ステートが圧倒的多数に見えるが、人口密度が少ないため、選挙人の数は少なめだ。

「南部」は、綿花栽培と奴隷制度の歴史を持ち、湿地帯が広がっている。また熱心なキリスト教地域で、聖書を読み、教会に行く人が都市部より多い。現在では聖書アプリを携帯電話にいれている人を多数見かけるという。

 

八月の光 (光文社古典新訳文庫)

八月の光 (光文社古典新訳文庫)

 

 

アブサロム、アブサロム!(上) (岩波文庫)

アブサロム、アブサロム!(上) (岩波文庫)

 
  • 小説の舞台:南部ヨクナパトーファ郡(ミシシッピ州) 

南部といえば、みんな大好きフォークナーである。8月になると、私のTwitterタイムラインではみんなが『八月の光』を読み始める。舞台のほとんどが、南部にある架空の郡「ヨクナパトーファ郡」。ヨクナパトーファ郡は、彼が住んでいたミシシッピ州ラファイエット郡がモデルと言われている。奴隷制度、綿花畑、白人と黒人の血が混ざっていく、血が燃えたぎる土地のサーガを「ヨクナパトーファ・サーガ」として連作で書いている。中でも『アブサロム、アブサロム!』は何回も読み返したい傑作。

 

  • 小説の舞台:南部(ジョージア州) 

恩寵作家ことフラナリー・オコナーはジョージア州出身で、自身が南部小説家であることを強く意識していて、「私の書物に性格を与えた環境上の事実は、南部人であることと、カトリック教徒であることの2つである」と言い切っている。オコナーの小説は南部を舞台とした「恩寵系・劇薬小説」で、「自分はいい人」と思っている人間にたいして激烈な「恩寵」を与えて、目の中に入っている丸太を叩き落とす。どれも弾丸のように撃ち抜いてきて忘れがたい。

 

ハックルベリー・フィンの冒けん

ハックルベリー・フィンの冒けん

 
  • 小説の舞台:ミシシッピ州

「あらゆる現代アメリカ文学は、マーク・トウェインの『ハックルベリー・フィン』と呼ばれる一冊に由来する」とアーネスト・ヘミングウェイは書いた。舞台はミシシッピ州。『ハックルベリー・フィンの冒険』は、白人少年ハックと黒人の逃亡奴隷ジムがともに生きづらい故郷を脱出するために、ミシシッピ川流域をわたる冒険ものだ。川流域の風景、食事、霧など、ミシシッピ川流域の雰囲気にどっぷりひたれる。ハックが決断するシーンは何度読んでもすばらしい。

 

心は孤独な狩人

心は孤独な狩人

 
  • 小説の舞台:南部

南部小説の名作と名高いが、長らく絶版で、今年にめでたく新訳で復刊した。ありがとうハルキ・ムラカミ。『心は孤独な狩人』は、「個人の孤独」に焦点をあてている。「自分を理解してくれる人が欲しい、認められたい」という誰もが持つ願いと、人の心はどこまでいっても交わらない悲哀を描いている。聴覚障害を持つ白人は、ほほえみ、うなづき、自分の意見を口にしない。だから南部の多様な人たちが「理想の理解者」として彼に心を打ち明ける。しかし、彼の理解者は? 誰かに認めてほしくて、理想の理解者像を作り上げる。人はそういう悲しくて孤独な生き物なのだ。

 

地下鉄道 (ハヤカワepi文庫)

地下鉄道 (ハヤカワepi文庫)

 
  • 小説の舞台:深南部(サウスカロライナ州)、ノースカロライナ州 

奴隷制度時代のディープ・サウス(深南部)から北部に向かって逃亡する、逃亡奴隷少女のサバイバル脱走小説。「地下鉄道」とは、実際に存在した、逃亡を助ける秘密組織である。逃亡奴隷は地図も情報もないから、彼らの助けなしには逃亡できなかった。主人公は、南北を横断する逃走を続けるので、風景と人々がどんどん変わっていって、アメリカを旅行する(それにしてはあまりにも過酷だが)ロード・ノベルでもある。

 

  • 小説の舞台:テキサス州

イラク戦争から一時帰還した米兵が、「英雄」としてアメフトのスタジアムで、熱狂的な愛国者に歓迎される1日を描いた小説。舞台は、共和党が長年勝ち続けてきたテキサス州。英雄、愛国、アメフト、米軍、お祭り騒ぎといったアメリカてんこ盛り要素と、イラク戦争のフラッシュバックが入り乱れる、21世紀アメリカらしい小説。

 

ジーザス・サン (エクス・リブリス)

ジーザス・サン (エクス・リブリス)

  
  • 小説の舞台:中西部

おそらく中西部と思われるアメリカの田舎町で、麻薬を打ち、刑務所を出入りしている「破滅的に生きているアメリカ人」を描く。彼らはたいてい貧しく無職で、空き家にはいって金属を盗んだり、ひたすら飲んだくれたり、麻薬にふけったりする。目にナイフが突き刺さっている人が緊急治療室にくるなど、タフでユーモアがある物語が、電撃のような文章で描かれる。目にナイフが刺さっている人の話は、YouTubeでショート・ムービーが見られる。著者が目にナイフが突き刺さった男役で、真顔ギャグで大変よい。

 

オーバーストーリー

オーバーストーリー

 
  • 小説の舞台:中西部

中西部に広がる原生林を舞台とした「アメリカン・樹木小説」。中西部に木を植えた一族の末裔が、アメリカ最後の原生林に呼び寄せられて西へ向かう。アメリカの中西部といえば、開拓し尽された赤い土を想像しがちだったが、原生林が残されていると、『オーバーストーリー』ではじめて知った。

 

  • 小説の舞台:オクラホマ州、中西部

アメリカのど真ん中、中西部にあるオクラホマ州と西部、カルフォルニアを横断する「貧困一族の不屈の上京小説」。干ばつ、砂嵐で所有地が使えなくなってしまった農家一族が、仕事を求めて西の都市カリフォルニアへ向かう。同じ家族でも、土地を捨てて土地から離れることで、塞ぎこむ人と、強くなる人がいる。赤い土のオクラホマ州、カリフォルニアに向かう途中の西部州を移動するロード・ノベルであると同時に、資本家によって土地を奪われる経済構造のえぐさを描いている。

 

ブルー・ステート(民主党の支持地盤)

 ブルー・ステートは、都市部、海岸沿いが中心だ。代表的なのがニューヨークがあるニューヨーク州、サンフランシスコやシリコンバレーがあるカリフォルニア州だ。都市部のため、面積は狭いが人口密度が高く、ニューヨーク州とカリフォルニア州は、トップ3の選挙人数を持つ。

東海岸は、入植者ピルグリム・ファーザーズが住み着いた町で、アイビーリーグをはじめとした著名大学が集中している。

西海岸は開拓時代のゴールド・ラッシュで爆発的に人口が増え、その後はIT企業が集まるシリコンバレーとなる。IT界隈にいる人たちが考える「アメリカ」のイメージはほとんどが西海岸ベースだと思う。日本人(そして多くの外国人)にとって最もなじみがあるだろう、アメリカ地域。

 

ガラスの街 (新潮文庫)

ガラスの街 (新潮文庫)

 
ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)

ブルックリン・フォリーズ (新潮文庫)

 
  • 小説の舞台:ニューヨーク州 

ポール・オースターは、「ニューヨーク三部作」をはじめとして、東海岸ニューヨークを舞台にした小説を書いている。初期の「ニューヨーク三部作」は都市の孤独と幻影が強い都市小説で、『ムーン・パレス』はニューヨーク州の名門コロンビア大学に通う学生が主人公。『ブルックリン・フォリーズ』『サンセット・パーク』は、ブルックリンを舞台にした、家族小説。 

 

 

ティファニーで朝食を (新潮文庫)

ティファニーで朝食を (新潮文庫)

 
  • 小説の舞台:ニューヨーク州

21世紀になって、ティファニーにダイニングができた、というニュースを聞いた時、50年以上前の小説の人気をあらためて知った。売れない小説家の男性と自由奔放な女性が出会い、ニューヨークを歩きながら会話する。ホリーの話がとてもいい。

 

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)

オープン・シティ (新潮クレスト・ブックス)

 
  • 小説の舞台:ニューヨーク州

 ニューヨークを散歩する、散歩小説。ナイジェリア系アメリカ人の精神科医が、マンハッタンの街並みをひたすら散歩し、思索にふけり、人々と話し、また考え、歩いていく。ニューヨークを歩きながらナイジェリアの記憶に地すべりしていき、マンハッタンを歩きながら世界のどこか、あるいはどこでもない場所を歩いている。

 

クローディアの秘密 (岩波少年文庫 (050))

クローディアの秘密 (岩波少年文庫 (050))

 
  • 小説の舞台:ニューヨーク州

ニューヨークのメトロポリタン美術館へ家出する、タフな姉弟の冒険小説。「みんなのうた」の「メトロポリタン美術館」でトラウマとなった人が多いだろうが、原作は最高なので、ぜひ読んでほしい。小学生の頃に読んで、こういうタフさといたずらと冒険心を持つ大人になりたいと思ってきた。小学生の頃からずっと好き。

 

書記バートルビー/漂流船 (古典新訳文庫)

書記バートルビー/漂流船 (古典新訳文庫)

 
  • 小説の舞台:ニューヨーク州 

世界の金融街ウォール街は、昼夜を問わず激烈に働くピープルの巣窟だが、メルヴィルが描くウォール街には、仕事を「せずにすめばありがたい」と全力拒否する男がいる。仕事をしたくない時に、バートルビーのマネをするだけで心がやすらぐので、仕事したくないなと思ったら(つまり今すぐに)読んでほしい。

JR

JR

 
  • 小説の舞台:ニューヨーク州  

ニューヨークの「金融街」としての狂乱を描いた小説。インターネットがない時代、小学生の少年JRが電話と郵便を駆使して企業を成長させていく。無邪気さ、金へのがめつさ、成り上がりぶりから、アメリカの擬人化小説としても読める。分厚いうえに、99%発話者がわからない会話のみという狂気のスタイルで、読者を混沌にぶちこむ。

 

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

 
  •  小説の舞台:ニューヨーク州 

偉大なるギャツビーが屋敷をかまえたのは、ニューヨーク州郊外のロング・アイランドである。アメリカン・ドリームを手にして失う、ピンクスーツを着た男の恋と悲哀を描く。

 

  •  小説の舞台:カリフォルニア州

ピンチョンの中ではいちばん親しみやすいと言われる、地球人フレンドリーなピンチョンの小説。どこにでもいる平凡な主婦のもとに大富豪の元彼から遺産が……!と、なろう小説に登場しそうな設定の上で、陰謀論と秘密組織と謎が大挙して押し寄せて暴れ散らかす。カリフォルニアの町のあちらこちらに描かれるラッパマークを追っていけば、無事にみんな迷宮入り。

 

  • 小説の舞台:カリフォルニア州 

西海岸カリフォルニア州ロサンゼルスに住む作家が、仕事に行き詰まり地元のフリーペーパーに広告を載せる人に会いに行くことを思いつく。ホワイトカラーの著者がいつもの生活をしていたら、フリーペーパーを利用する人々(だいたいがブルーカラーか無職)と関わりあうことはないが、この行動によって不思議な出会いがうまれる。それぞれのフリーペーパー掲載者の癖の強さと、ミランダの素直でさらけ出すスタイルがあいまって、とてもいい。アメリカ・ミーツ・アメリカ。

 

オン・ザ・ロード (河出文庫)

オン・ザ・ロード (河出文庫)

 
【新訳】吠える その他の詩 (SWITCH LIBRARY)

【新訳】吠える その他の詩 (SWITCH LIBRARY)

 
  •  小説の舞台:カリフォルニア州 

アメリカから世界に広がったビート・ジェネレーションは、西海岸、カリフォルニア州サンフランシスコで誕生した。ギンズバーグが詩集を刊行した、カリフォルニアのシティ・ライツ・ブックストアでギンズバーグは『吠える』を刊行した。ヒッピー文化の源泉ともなる、大きなムーブメントをつくったサンフランシスコは、けっこうな文学都市だと思う。

 

勝手に生きろ! (河出文庫)

勝手に生きろ! (河出文庫)

 
  •  小説の舞台:カリフォルニア州 

きらきらしたサンフランシスコではなく、日雇い労働と娼婦と飲んだくれのサンフランシスコを描く。いろいろ丸出しで、精神全裸とでも呼ぶべき率直さは、読んでいてすがすがしい。ブコウスキーはすぐに仕事を辞めてアメリカ中を転々とするが、やがてサンフランシスコに落ち着いた。作品の舞台のほとんどはサンフランシスコで書かれている。

 

芝生の復讐 (新潮文庫)

芝生の復讐 (新潮文庫)

 
  • 舞台:カリフォルニア州 

ブローティガンの描くアメリカは、端的に言えばすごく変だ。幻想が浮遊している、メランコリア・アメリカ。

 

スウィング・ステート(激戦州)

 スウィング・ステート(共和党と民主党どちらにも寄らず揺れ動く州)は、激戦州であり、勝敗を左右する。北部カナダ国境沿いの五大湖周辺、西海岸のフロリダ州、南部メキシコ国境沿いが、おもな激戦州として注目されている。

五大湖周辺はカナダ国境に近い内陸で、冬はとても寒い。水路があるため、工業地帯として発展したが、グローバル化のあおりを受けて、今は「ラスト・ベルト」(錆ついた工業地帯)と呼ばれる。2016年大統領選挙では、五大湖地域州が共和党に投票したことが話題となった。

メキシコとの国境地帯は砂漠が多く、ラティーノ系住民が多い。また不法移民対策のため、メキシコとの間に「壁」をつくる、と言われた場所でもある。

 

路地裏の子供たち

路地裏の子供たち

 
  • 小説の舞台:イリノイ州 

五大湖地域イリノイ州の都市シカゴを舞台にした「アメリカの下町」小説。シカゴは工業地帯で移民が多く、冬はとてつもなく寒い。2019年にはマイナス50度の大寒波ニュースが出た土地だ。訳者の柴田氏いわく、日本の京浜工業地帯に雰囲気が似ているらしい。冬の寒い景色、移民、工業地帯の下町など、ラスト・ベルトの雰囲気をぞんぶんに感じられる。

 

 

私の名前はルーシー・バートン
 
何があってもおかしくない (早川書房)

何があってもおかしくない (早川書房)

 
  • 小説の舞台:イリノイ州 

貧しい実家への割り切れない感情を描いた、「田舎の実家」小説。五大湖地域イリノイ州の貧しい工業地帯の田舎で幼少期をすごした女性が、兄弟の中でひとりだけ大学に行き、結婚してニューヨークに移り住み、アメリカン・ドリームを叶える。実家は貧しく、親とは気質があわず疎遠になっていたが、会ってみるとさまざまな感情が飛来する。とても繊細な心の揺れを描く作家で、実家に複雑な感情を持っている人におすすめ。

 

  • 小説の舞台:オハイオ州 

五大湖地域オハイオ州にある、架空の田舎町ワインズバーグに住む人たちを描く群像小説。小さな田舎町で「自分は特別だ」と思っている人たちが、夢を抱えながらも出口を見つけられないでいる。2016年大統領選挙以降は、『ヒルビリー・エレジー』の先祖としての文脈で紹介されている。

 

 

ザリガニの鳴くところ

ザリガニの鳴くところ

 
  • 小説の舞台:ノースカロライナ州 

アメリカ南部には、豊かな湿地帯が広がっている。その湿地帯を舞台にした少女サバイバル。過酷な家庭環境でたった1人で生きてきた少女に、殺人事件の疑いが向けられる。著者が動物学者のためか、生き物と自然の描写が際立っている。

 

  • 小説の舞台:メキシコ国境地域

メキシコ国境地帯といえば、コーマック・マッカーシーである。「国境三部作」ほか、多くの作品舞台が、国境付近の砂漠と荒野である。マッカーシーが描く国境は暴力が吹き荒れており、いちど踏み入れたら生きて帰れる心地がしない。『ブラッド・メリディアン』『血と暴力の国』では人外めいた殺戮者が登場し、「すべての者は死ぬ運命にある」と歌いあげる。

 

サブリナとコリーナ (新潮クレスト・ブックス)

サブリナとコリーナ (新潮クレスト・ブックス)

 
  • 小説の舞台:コロラド州

メキシコ国境付近のラティーノ系住民とコミュニティを描いた短編小説。表題作の舞台は、コロラド州にある架空の町。先住民系やラティーノ系が多く、白人コミュニティとは交わらない。ラティーノ系アメリカ人が書いた文学はあまり読んだことがなく、国境地帯の雰囲気は他の都市部や南部と違っていた。

 

まとめ

 

地図で読むアメリカ

地図で読むアメリカ

 

 今回、各州の歴史や人種、風土、経済、政治については、ジェームス・M・バーダマン『地図で読むアメリカ』を参照した。アメリカ50州を10の地域にわけて、歴史、経済、政治、文化をバランスよく紹介していて、アメリカ文学を読む時に、手元に置きながら参照すると、いろいろはかどってよい。

 

このブログでは「アメリカ文学」とひとつのカテゴリに入れているけれど、読んでいくうちに、多様な国が集まってできた国、まさに「United States」なアメリカなのだと気づく。

あれほど広大な国土で、州ごとに法律も歴史も住んでいる人たちも違うのだから、そりゃそうだろうと思うが、地域やコミュニティを意識せず、なんとなく漠然とした「アメリカという国の小説」として読んできたことも確かで、地図を見て、歴史を調べつつ読むようになったら、ずいぶんとアメリカのいろいろな顔が見えてきた気がする。

 

 その土地に住んだことがなくても、旅行したことがなくても、その土地の雰囲気と歴史を感じられるのが、小説のよいところだと思う。

個人的には、ラスト・ベルトあたりと中西部をあまり知らないから、ここらへんの地域の小説を読んでみたい。

あと、作ってみたらけっこうおもしろかったので、海外文学ブックフェアとしてやってみるのはいかがですか(版元と書店の皆さん、いかがですか)。

海外文学アドベント・カレンダーをつくった