「海外文学・世界文学ベスト100冊」は、どの1冊から読み始めればいいか
#2019年、編集済み。
「海外文学の名作100冊」を分類する
世界文学・海外文学は広大な海あるいは原野のようだ。それゆえ、初心者にとって地図がとても見づらい。「面白い」「古典」「話題になっている」という定性的な物差しはたくさんあるけれど、それだけで歩くにはあまりにタイトルの数が多すぎる。さらに「面白い」の基準は人それぞれなので、リストは無数にある。ほんのり海外文学に興味はあるけれど、どの羅針盤を使えばいいのかわからない人が「とりあえず海外文学ベストならまちがいないのでは」とベスト荒野に向かい、アチャス&エペペする姿を何度も目撃してきた。
というわけで、ノルウェー・ブック・クラブが2002年に公表した”Top 100 Books of All Time”「世界最高の文学100冊」を「値段」「ページ数(読了までの長さ)」「入手可能さ」という定量的な指標で分類してみた。本リストを選んだのは、おそらく日本で最もブックマークがついている海外文学ベスト100のリストだからだ。わたしの好みど真ん中のものもあれば、外れているものもある(わたしの個人ベストはこちら)。
ノルウェー・ブック・クラブ「世界最高の小説100冊」:世界54カ国の著名な作家100人の投票によって選ばれた。
お金がないけれど時間がある学生は「値段」を見ればいいし、ふだん本をあまり読まないのでいきなり長いものはつらいという人は「かかる時間」を基準にして選べばいい。宵越しの金は持たないからとにかく面白いものを、という快楽主義者は私の独断による一言を眺めつつ題名の格好よさで選んでみてもいいだろう。
ようは、その時の気分にあった本を鼻歌でも歌いながら選べばいい。必要なのは、多様な指標とそれに沿った分類、選択肢を増やすことだ。
表記の基準
- 出身国:言語 |値段 | ページ数 | 入手可能さ | 翻訳の年代|
書籍データはAmazon.co.jpのカタログに準拠。複数社から翻訳が出ているものについては、総合評価が最も高いものを選んでいるが、ものによっては次点を採用した(理由については各コメント参照)。
値段
- A:1000円未満
- B:1001-2000円
- C:2001-4000円
- D:4000円以上
分量
- A:300ページ以下
- B:301-600ページ
- C:601-1000ページ
- D:1001ページ以上
書物の重量や厚さはけっこう重要だ。『重力の虹』の重力ぶりを見てほしい。出版社ごとに異なるが、文庫が1ページあたりだいたい600-700文字、ハードカバーが平均700〜900文字。300ページ以下だとかなり薄く、1冊の分量が500ページを超えると「おお重力」とちょっと思うぐらい。
入手可能さ
- A:文庫で入手可能
- B:ハードカバーで入手可能
- C:翻訳はあるが入手できない(絶版)
- D:未邦訳
2015年1月1日現在。在庫がなくなったら、出版社と復刊ドットコムの前で復刊祈願の踊りを踊ってください。
1. 文庫1冊で読める作品
まずはここから。『自負と偏見』『城』『ハムレット』などの定番から『不穏の書、断章』『ペドロ・パラモ』『血の婚礼』などほかに比べれば地味だが良い作品までそろっている。個人的にはエドガー・アラン・ポー作品(特にゴシックもの)は導入としていちおし。
チヌア・アチェベ『崩れゆく絆』
- ナイジェリア:英語 | 値段:B | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:チヌア アチェベ
- 発売日: 2013/12/05
- メディア: 文庫
アチェベは不思議なバランス感覚を持つ作家だ。コンラッド『闇の奥』をはじめとしたヨーロッパ文学が、一方的にアフリカを未開の社会、ヨーロッパの被害者として描くことを痛烈に批判し、「アフリカ人から見たアフリカ」を描こうとした一方で、アチェベ自身はキリスト教に改宗した裕福な家のうまれであった。アフリカである、しかしヨーロッパでもある、という生い立ちの国境線を刀の上を歩くように渡りきったのが『崩れゆく絆』である。主人公の男が脳みそ筋肉のマッチョ男で大変うんざりさせられるのだが、自信がない男が偽りのプライドに固執し、折られ、瓦解する様子を強烈に描いている。自信がないから他人とのあいだに壁を張り、弱さを見られたくないから攻撃的になる男性たちにはぜひ読んで崩れ落ちていただきたい。
ジェーン・オースティン『高慢と偏見』
- イギリス:英語 | 値段:A | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ジェイン オースティン
- 発売日: 2014/06/27
- メディア: 文庫
- 作者:ジェイン オースティン
- 発売日: 2003/08/01
- メディア: 文庫
ツンデレ紳士淑女大国のイギリスが誇る、ツンデレ恋愛文学の金字塔。21世紀においても、英国に住む女性陣がアフタヌーン・ティーをたしなみながら、いかにミスター・ダーシーが素敵かをえんえんに語り続けるので、その根強い人気にはつくづく驚嘆させられる。とにかくエリザベスがかわいい(自負と偏見)し、ダーシーがいきなりツンをかなぐり捨ててデレにつっぱしるところも大変に萌える。
古典中の古典なだけあり、日本では現在8つの翻訳が手に入る。ここ20年ぐらいのあいだに出て、新刊書店で買える翻訳をさらりと比較してみた。
- 中野好夫訳(新潮文庫):長く新潮文庫の定番として親しまれてきた。2014年に小山太一訳が採用され、絶版となった。語尾が「ですよねえ」などと伸びる。エリザベスのはねっかえりぶりがけっこう高め。
- 小山太一訳(新潮文庫):中野好夫訳にかわり、2014年から新潮文庫に入った。ここに挙げた4訳の中ではいちばん現代語らしい。
- 中野康司訳(ちくま文庫):オースティンのすばらしい人物描写と英国貴族の雰囲気が最もよく出ていると思うのが、この中野康司訳。エリザベスとダーシーの語りぶりはいちばん好きだが、ちくま文庫(高い)で2冊なので2000円以上かかる。
- 阿部知二訳(河出文庫):2006年に新装版として出たが、もとは1968年の翻訳。エリザベスのお嬢さん度が高め。
- 小尾芙佐訳(古典新訳文庫):こちらも新訳だが、同時期の小山訳とは異なり、やや古典的。「なのよ」「そうだわ」など、いまの女性たちがあまり使わない会話表現が多い。エリザベスのはねっかえりぶりと勢いが控えめ。
というわけで、宵越しの金を持たない快楽主義者はちくま文庫の中野康司訳(1052円×2冊)、新しい翻訳を読みたい人は新潮文庫の小山太一訳、お嬢さん度高めの英国貴族を堪能したいなら河出文庫の阿部知二訳を。小尾訳は個人的に好きではないが、それはわたしが元気なエリザベスが好きだからなので、本屋で実際にエリザベスとダーシーの会話(ここ重要)を読み比べて、いちばんときめく会話を選んでほしい。
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『伝奇集』
- アルゼンチン:スペイン語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:J.L. ボルヘス
- 発売日: 1993/11/16
- メディア: 文庫
オノレ・ド・バルザック『ゴリオ爺さん』
- フランス:フランス語 | 値段:A | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A(初訳は1972年) |
- 作者:バルザック
- 発売日: 1972/05/02
- メディア: 文庫
エミリ・ブロンテ『嵐が丘』
- イギリス:英語 | 値段:B | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:エミリー・ブロンテ
- 発売日: 2003/06/28
- メディア: ペーパーバック
- 作者:エミリー・ブロンテ
- 発売日: 2004/02/17
- メディア: 文庫
アルベール・カミュ『異邦人』
- アルジェリア:フランス語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C(初訳は1951年) |
- 作者:カミュ
- 発売日: 1963/07/02
- メディア: 文庫
アントン・チェーホフ『チェーホフ全作品』
- ロシア:ロシア語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C/D |
- 作者:チェーホフ
- 発売日: 1967/09/27
- メディア: 文庫
- 作者:チェーホフ
- 発売日: 1967/09/01
- メディア: 文庫
- 作者:チェーホフ
- 発売日: 1970/11/30
- メディア: 文庫
エウリピデウス『王女メディア』
- ギリシア:ギリシア語| 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:D |
- 作者:エウリピデス
- 発売日: 1986/03/01
- メディア: 文庫
アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』
- アメリカ:英語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A(初訳は1953年) |
- 作者:ヘミングウェイ
- メディア: 文庫
ウォルト・ホイットマン『草の葉』
- アメリカ:英語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
おれにはアメリカの歌声が聴こえる―草の葉(抄) (光文社古典新訳文庫)
- 作者:ウォルト ホイットマン
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 文庫
イプセン『人形の家』
- ノルウェー:ノルウェー語 | 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:イプセン
- 発売日: 1996/05/16
- メディア: 文庫
川端康成『山の音』
- 日本:日本語 | 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:- |
- 作者:康成, 川端
- 発売日: 1957/04/17
- メディア: 文庫
フランツ・カフカ『審判』
- チェコ:ドイツ語 | 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:フランツ カフカ
- 発売日: 2006/05/01
- メディア: 新書
フランツ・カフカ『城』
- チェコ:ドイツ語 | 値段:B | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:フランツ カフカ
- 発売日: 2006/06/01
- メディア: 新書
文庫版では新潮文庫と白水社uブックスが手に入りやすいが、翻訳の新しさを考慮してこちらを推薦。値段は新潮社版の方が700円ほど安い。『城』は未完なので、すこしでもすっきりした読後感を残したいなら(カフカにそんな作品は皆無だが)、まずは『審判』を。ブラックユーモアに笑いたいなら『城』からどうぞ。りんごを背中にめりこませたやっかい者ニートの気分になりたいなら『変身』をおすすめする。
カーリダーサ『シャクンタラー姫』
- インド:サンスクリット語| 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:カーリダーサ
- 発売日: 1977/08/16
- メディア: 文庫
アストリッド・リンドグレーン『長くつ下のピッピ』
- スウェーデン:スウェーデン語| 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:アストリッド・リンドグレーン
- 発売日: 2000/06/16
- メディア: 単行本
トニ・モリスン『ビラヴド』
- アメリカ:英語| 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:トニ モリスン
- 発売日: 1998/12/15
- メディア: 文庫
ウラジミール・ナボコフ『ロリータ』
- ロシア:英語 | 値段:A | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ウラジーミル ナボコフ
- 発売日: 2006/10/30
- メディア: 文庫
ジョージ・オーウェル『1984年』
- アメリカ:英語 | 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ジョージ オーウェル
- 発売日: 2009/07/18
- メディア: ペーパーバック
フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』
- ポルトガル:ポルトガル語 | 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:フェルナンド・ペソア
- 発売日: 2013/01/10
- メディア: 単行本
エドガー・アラン・ポー『エドガー・アラン・ポー全作品』
- アメリカ:英語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ポオ
- 発売日: 2006/04/14
- メディア: 文庫
ここではじめてオールAが出たが、ああポーか、それならばしょうがない、と首肯する。そう、ポーなのだ。薄暗く不気味な重低音を響かせながらじわじわとクレッシェンドをかけ、最後の一文で銃声を響かせ息の根をとめにかかる短編の名手。ホーンテッドマンションの舞踏会で旋回するドレスとタキシードの影のように、ポーの作品はわたしたちの日常をあっというまに黒と赤と霧色に塗りこめていく。翻訳はあまりにも数が多いが、入手しやすくておすすめできる訳者は、丸谷才一(中公文庫)、西崎憲(ちくま文庫)、八木敏雄(岩波文庫)。最も新しい巽孝之訳(新潮文庫)は「ゴシック編」「ミステリ編」と分かれていてわかりやすく、かつ表紙がかわいいので表紙買いしてもいいかもしれない。「アッシャー家の崩壊」はなんど読んでも最高だ。
ガルシーア ロルカ『血の婚礼』
- スペイン:スペイン語 | 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:ガルシーア ロルカ
- 発売日: 1992/07/16
- メディア: 文庫
フアン・ルルフォ『ペドロ・パラモ』
- メキシコ:スペイン語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:フアン・ルルフォ
- 発売日: 1992/10/16
- メディア: 文庫
ウィリアム・シェイクスピア『ハムレット』
- イギリス:英語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B/C |
- 作者:W. シェイクスピア
- 発売日: 1996/01/26
- メディア: 文庫
- 作者:ウィリアム・シェイクスピア
- 発売日: 1983/10/01
- メディア: 新書
ハリウッド映画が絶対に許さないであろう主人公、それがハムレット王子である。彼は行動しない。迷う。独り言を言いながらさまよう。自分を気づかう女の優しさを笑う。すべては復讐のためだが、それすら果たさない。彼が正気なのか狂気なのかすらわからないまま、読者は怒濤の最終場面へと引きずりこまれる。「行け! 行ってしまえ尼寺へ!」連打とか、なんなんだあの男はもう。
翻訳についてはあまりにも膨大な議論があるので割愛するが、新刊で手に入る訳書のうちおすすめは以下の3つ。個人的には小田島訳か松岡訳がおすすめ。
- 福田恒存訳(新潮社):1955年に初訳、1991年に改版。新潮社文庫にはいって長いので、おそらく最も多くの人が読んだであろう訳。「したもう」「しれぬ」などやや古典的で時代劇らしい言葉づかいが特徴。
- 小田島雄志訳(白水社):1983年訳。軽快なリズムとユーモアが特徴。英語の言葉遊びを「日本語の言葉遊び」になおしているため、「あまりにも違いすぎる」との批判もあるが、シェイクスピアを読んで「楽しい」と思ったのは小田島訳が最初だった。
- 松岡和子訳(筑摩書房) :1996年訳。最も新しい。前者ふたりからすれば知名度は劣るが、役者が劇で口にする「台詞」としてのシェイクスピアを目指す良訳。演劇の稽古場に同席し、役者たちとともに一緒に訳をなんども練りなおしているというだけあり、口にのせた時の響きがよい。
- 『ハムレット』ウィリアム・シェイクスピア - ボヘミアの海岸線
ウィリアム・シェイクスピア『オセロー』
- イギリス:英語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B/C |
- 作者:ウィリアム シェイクスピア
- 発売日: 2006/04/01
- メディア: 文庫
- 作者:ウィリアム・シェイクスピア
- 発売日: 1983/10/01
- メディア: 新書
ソポクレス『オイディプス王』
- ギリシア:ギリシア語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:ソポクレス
- 発売日: 1967/09/16
- メディア: 文庫
ジョナサン=スウィフト『ガリヴァー旅行記』
- アイルランド:英語 | 値段:B | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:スウィフト
- 発売日: 1980/10/16
- メディア: 文庫
レフ・トルストイ『イワンの馬鹿』
- ロシア:ロシア語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:D |
- 作者:トルストイ
- 発売日: 1966/04/16
- メディア: 文庫
マーク・トウェイン『ハックルベリイ・フィンの冒険』
- アメリカ:英語 | 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:D |
- 作者:マーク・トウェイン
- 発売日: 1959/03/10
- メディア: 文庫
ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』
- イギリス:英語 | 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:ヴァージニア・ウルフ
- 発売日: 2007/08/21
- メディア: 文庫
『ダロウェイ夫人』最新訳は2010年の土屋政雄訳(古典新訳文庫)。土屋訳は原文にある「他者」の声を一人称で統一しすぎているので、集英社版を選んだ。
ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』
- イギリス:英語 | 値段:B | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ヴァージニア ウルフ
- 発売日: 2004/12/16
- メディア: 文庫
鲁迅『狂人日記』
- 中国:中国語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:魯 迅
- メディア: 文庫
旧約聖書『ヨブ記』
- ヘブライ語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
『ギルガメシュ叙事詩』
- メソポタミア:シュメール語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B(初訳は1965年) |
◇◇◇
2. 文庫2冊以上で読める作品
これぞ名作といわんばかりの長編が名を連ねる。いろいろ迷うならまず『ドン・キホーテ』を読もう。そのあとはラブレーで大笑いし、ドストエフスキーで長台詞に酔い、プルーストでとどめを刺されるのだ。甘美。
ボッカッチョ『デカメロン』
- イタリア:イタリア語 | 値段:C | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:ジョヴァンニ・ボッカッチョ
- 発売日: 1999/05/10
- メディア: 文庫
つい2年前の2012年、7000円級の新訳『デカメロン』が河出書房新社から出てびっくりしたが、装丁は抜群に7000円版が格好いい(ボッティッチェリの作品を使っている)。まずは文庫で2冊が妥当だろう。紹介したのは講談社版の2冊。筑摩書房版は3冊だがKindleで読める。
ジェフリー・チョーサー『カンタベリー物語』
- イギリス:英語 | 値段:C | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:チョーサー
- 発売日: 1995/01/17
- メディア: 文庫
ユーモアは15世紀ごろから英国のお家芸だったようだ。カンタベリー寺院にお参りする敬虔な巡礼者たちが旅の退屈をまぎらわすために、とっておきの話を持ち寄る、イギリス版すべらない話。皆ゆるゆるで、寄進された屁を13等分するとか、浮気をするためにノアの洪水を予言するとか、すがすがしいほどにくだらない。すべての男たちを精神去勢させるカンタベリーの最終兵器、バースの女房の話はすごかった。
ダンテ『神曲』
- イタリア:イタリア語 | 値段:C | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ダンテ
- 発売日: 2008/11/20
- メディア: 文庫
もともと、やたら難解そうな古いキリスト教にしばられた作品を今さら読む気などなかった。この考えを改めたのは、ボルヘスが『神曲』に惚れ抜いていたからだった。あいにく私はフィレンツェの知識もキリスト教の知識もほとんどないから、書いてあることの8割はわからなかったが、確かにこの作品は圧倒的であり唯一無二だった。主人公のダンテは、初恋の愛しい女ベアトリーチェに会うために猛烈な地獄煉獄クエストをこなし、やっと彼女に会えたと喜ぶまもなく「このていたらく!」と罵られる。ベアトリーチェは炎に包まれた女神のようで、男が望む女神のような女性像ではない。彼女は彼を受け入れない。それでも彼女に会うために、魔術師は3つの世界を神もろとも構築した。まったく個人的なことのために世界も周囲も巻きこんで大伽藍を構築するこの狂気を、ボルヘスは愛したのかもしれない。彼もまた、個人的な望みのために無限を構築しようとしたのだから。
韻文で書かれているため多くの翻訳は韻文調だが、河出の平川版は口語体で翻訳されている。訳注も豊富。初訳は1966年だが、2008年に改訳しているため、「翻訳の新しさ:A」とした。
ディケンズ『大いなる遺産』
- イギリス:英語 | 値段:B | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
未読。田舎の貧しい少年だったピップが、名前もわからない誰かから莫大な遺産を受け取ることになる。ロンドンという大都会へ出ていったピップは、「大いなる遺産」のせいで周囲の人間たちの感情や彼らとの距離が劇的に変わっていくのを目撃する。『エマ』や『ダウントン・アビー』などを見ていてもわかるが、英国は今も昔も強烈な階級社会だ。だからピップの階級移動はいま日本で読む印象とは比べものにならないほど衝撃だっただろう。
ドストエフスキー『罪と罰』
- ロシア:ロシア語 | 値段:B | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B/C |
- 作者:ドストエフスキー
- 発売日: 1987/06/09
- メディア: 文庫
- 作者:ドストエフスキー
- 発売日: 2008/11/02
- メディア: 文庫
ロシア文学は20世紀の翻訳者たちに恵まれている。研究者レベルでの評価はもちろん異なるのだろうが、読者としてのわたしはどの人の翻訳も好き。どの訳書を選ぶかは好みの問題になる。ただし亀山訳は別で、これだけはおすすめしづらい。
- 江川卓訳(岩波文庫):初訳は1966年。1999年に改訳。全3巻。
- 工藤精一郎訳(新潮文庫):1961年訳。全2巻。
- 米川正夫訳(角川文庫):初訳は1935年。2008年に改訳。もともとは新潮文庫にはいっていたが、新潮文庫が工藤訳になったため、角川文庫から出るようになった。全2巻。
- 亀山郁夫訳(光文社古典新訳文庫):古典新訳文庫シリーズのうち最も批判が巻き起こった翻訳のひとつ。多くの人を挫折させてきたロシア文学の「本名・あだ名」を撤廃して呼び名を統一したのは編集方針だろうが、それ以前に文章を変えすぎているという指摘が巻き起こった。
- 『罪と罰』ドストエフスキー - ボヘミアの海岸線
ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
- ロシア:ロシア語 | 値段:C | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A/C |
- 作者:ドストエフスキー
- 発売日: 1978/07/20
- メディア: 文庫
新潮文庫の原卓也訳は全3巻(1978年)、岩波文庫の米川正夫訳は全4巻(1957年)。どちらも名訳者なのでお好きな方を。「人物の名前が混乱する」という人は光文社古典新訳文庫がいいだろう。値段は新潮版が1000円ほど安い。
ドストエフスキー『白痴』
- ロシア:ロシア語 | 値段:C | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
[asin:4309463371:detail]
未読。聖人なのか、馬鹿者か? 『イワンの馬鹿』にも連なる「清廉潔白の白痴」をめぐる物語。この世は欲望と自意識がうずまく魑魅魍魎の世界だが、そこに「無条件に善良な人間」が現れたらどうなるか。利用されて食いつぶされるのか、それとも周りの人間になにか影響を与えるのか。キリスト教圏ではもともと「白痴は神に愛された無垢な存在」として、神への敬意とともに皆で尊ぶ風潮があった。これらの社会的な包容力については、米原万里がエッセイでなんどか言及している。
手に入りやすいのは木村浩訳(新潮社版、1969年、全2巻)と望月哲男訳(河出書房新社版、2010年、全3巻)。値段は新潮社版の方が安いが、2010年という新しい翻訳は魅力で評判もよいので、私は望月訳を積んでいる。
ウィリアム・フォークナー『響きと怒り』
- アメリカ:英語 | 値段:B | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:フォークナー
- 発売日: 2007/01/16
- メディア: 文庫
ギュスターヴ・フローベール『感情教育』
- フランス:フランス語 | 値段:C | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A|
- 作者:フローベール
- 発売日: 2014/10/09
- メディア: 文庫
ゲーテ『ファウスト』
- ドイツ:ドイツ語 | 値段:B | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:ゲーテ
- 発売日: 1967/11/28
- メディア: 文庫
新訳決定版 ファウスト 第一部 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
- 作者:ゲーテ
- 発売日: 2004/05/20
- メディア: 文庫
訳文については、高橋義孝訳(新潮社)と池内紀訳(集英社)でかなり異なる。もはや別作品といってもいい。高橋訳は原文の韻に沿った硬めの訳だが、池内訳は徹底的に口語訳になおしている。メフィストフェレスがかなり愉快でファンキーなので池内訳は好きだが、格好いい高橋訳も根強い支持がある。ファウストとメフィストフェレスの会話部分などを読み比べて、好きなほうを選んでみるとよいだろう。
ホメロス『イリアス』
- ギリシア:古代ギリシア語 | 値段:C | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:ホメロス
- 発売日: 1992/09/16
- メディア: 文庫
ホメロス『オデュッセイア』
- ギリシア:古代ギリシア語 | 値段:B | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:ホメロス
- 発売日: 1994/09/16
- メディア: 文庫
ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』
- アイルランド:英語 | 値段:D | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B(初訳は1964年) |
- 作者:ジェイムズ・ジョイス
- 発売日: 2003/09/19
- メディア: 文庫
フランソワ・ラブレー『ガルガンチュワ物語』『パンタグリュエル物語』
- フランス:フランス語 | 値段:D | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
ガルガンチュア―ガルガンチュアとパンタグリュエル〈1〉 (ちくま文庫)
- 作者:フランソワ ラブレー
- 発売日: 2005/01/01
- メディア: 文庫
紫式部『源氏物語』
- 日本:日本語 | 値段:D | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:紫式部
- 発売日: 1964/05/21
- メディア: 文庫
中学生の頃、図書館の片隅で『あさきゆめみし』をどきどきしながら読みふけった。大学受験のために現代語訳でも、と思って軽く読みはじめたら、勉強時間をけずってまで読むことになった。ラテン的ともいえる性への大らかさと「好きだからゴー」という直球さを見ていると、千年後のわたしたちのなんと退屈なことか。光源氏は本当にどうしようもない男だが、彼を愛してしまう女の気持ちもわかってしまう。光源氏の心の穴は、『ロリータ』のハンバート・ハンバートに通じたトンネルになっている。源氏がTwitterをやっていたらすごいことになっていたと思うな。
トーマス・マン『ブッデンブローク家の人びと』
- ドイツ:ドイツ語 | 値段:C | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:トーマス マン
- 発売日: 1969/09/16
- メディア: 文庫
ハーマン・メルヴィル『白鯨』
- アメリカ:英語 | 値段:C | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ハーマン・メルヴィル
- 発売日: 2004/08/19
- メディア: 文庫
- 作者:ハーマン・メルヴィル
- 発売日: 2000/06/09
- メディア: 文庫
翻訳は入手可能なもので4つあるが、テンションが高く笑える八木訳か、最新の千石訳がおすすめ。訳の比較については「クジラスレイヤー ピークォド号炎上」:『白鯨』で『ニンジャスレイヤー』にまとめてある。八木訳は「田子作ダンディ」「あわれバター抜き男」などドキドキせずにはいられない単語がいっぱい詰まっている。千石訳は翻訳者からの評価が高い。
オウィディウス『変身物語』
- ギリシア:ギリシア語 | 値段:B | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:オウィディウス
- 発売日: 1981/09/16
- メディア: 文庫
マルセル・プルースト『失われた時を求めて』
- フランス:フランス語 | 値段:D | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A |
失われた時を求めて〈1〉第一篇「スワン家のほうへ1」 (光文社古典新訳文庫)
- 作者:マルセル プルースト
- 発売日: 2010/09/09
- メディア: 文庫
失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)
- 作者:プルースト
- 発売日: 2010/11/17
- メディア: 文庫
訳は、いまも刊行中の高遠弘美訳(光文社古典新訳文庫)がいちおし。
- 井上究一郎訳(ちくま文庫):1973-1988年の翻訳。完訳だが絶版。
- 鈴木道彦訳(集英社文庫):1996-2001年の翻訳。完訳で新刊購入できる。
- 高遠弘美訳(光文社古典新訳文庫):2010年-刊行中。第1巻のかなりの部分を割いて訳者が書いた「読書ガイド」がよい。
- 吉川一義訳(岩波文庫):2010年-刊行中。詳細な編注や地図など、こまやかな配慮が行き届いている。
岩波文庫の吉川一義訳もすばらしいと評判なのだが、持っていないので比較できなかった。高遠訳と吉川訳は刊行中なので、もし一気に読みたいなら井上訳か鈴木訳を。鈴木版を持っていたところ井上訳を勧められたので買ってみたが、たしかに井上訳のほうが好みだった(ただし井上訳は絶版)。個人的には、高遠訳&吉川訳>井上訳>鈴木訳の順でおすすめ。
ミゲル・デ・セルバンテス『ドン・キホーテ』
- スペイン:スペイン語| 値段:D | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:セルバンテス
- 発売日: 2001/01/16
- メディア: 文庫
自分の部屋と頭の中では、わたしたちはいつでも無敵である。やればできるけどやらないだけだし、愛されるヒーローだしお姫様だ。さてこの容赦ない世界に出たとき、われわれにはいくつかの選択肢がある。打ちのめされて死ぬか、打ちのめされて泥まみれになりながら這い上がるか、鎮痛剤を飲んで平気なふりをするか、家の庭に出て「外に出たことにする」か、すぐにとってかえして篭城するか。われらがドン・キホーテは「部屋を背負いながら外に出る」という無茶苦茶なことをやってのけた。彼はいくら世界にたこ殴りにされても、強烈な妄想力に支えられた「おれはヒーロー」という信念を捨てない。彼はたこ殴りにされながら、世界をたこ殴りにする夢を見る。ただもう唖然としすぎて、最終巻まで一気に読まずにはいられなかった。
『まどマギ』が好きな人は読んで死ぬといい。ブッツァーティ『タタール人の砂漠』とともに摂取すると、人生の無意味過多になって致命傷になるのでお気をつけください。
ルイ=フェルディナン・セリーヌ『夜の果てへの旅』
- フランス:フランス語 | 値段:B | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:セリーヌ
- 発売日: 2003/12/01
- メディア: 文庫
スタンダール『赤と黒』
- フランス:フランス語 | 値段:B | ページ数:C | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A/D |
- 作者:スタンダール
- 発売日: 1957/02/27
- メディア: 文庫
- 作者:スタンダール
- 発売日: 2007/09/06
- メディア: 文庫
レフ・トルストイ『戦争と平和』
- ロシア:ロシア語 | 値段:D | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:トルストイ
- メディア: 文庫
未読。ロシア文学を読んでいたりヨーロッパの歴史を眺めていたりすると、いかにロシアがヨーロッパ、特にフランスに多大なコンプレックスを抱き続けてきたかがよくわかる。ロシア人は自分たちのことを「ヨーロッパの辺境」と自負していたが、ヨーロッパの中央は辺境とすら見なしていなかった。そんなロシアにとって「ナポレオンのロシア侵入」はあまりにも大事件だったことは想像にかたくない。私の恩師が『戦争と平和』を人生で何度も読み返していると言っていたので、近々読んでみようと思っている。
レフ・トルストイ『アンナ・カレーニナ』
- ロシア:ロシア語 | 値段:C | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:A/B |
- 作者:レフ・ニコラエヴィチ トルストイ
- 発売日: 2008/07/10
- メディア: 文庫
ここでは旧訳を紹介したが、新訳は光文社古典新訳文庫から出ている。
ヴァールミーキ『ラーマーヤナ』
- インド:サンスクリット語 | 値段:B | ページ数:B | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:C |
ラーマーヤナ―インド古典物語 (上) (レグルス文庫 (1))
- 作者:清史, 河田
- 発売日: 1971/06/05
- メディア: 新書
- 作者:上村 勝彦
- 発売日: 2003/01/01
- メディア: 文庫
『千夜一夜物語』
- イスラム世界:古代ペルシア語 | 値段:D | ページ数:D | 入手可能さ:A | 翻訳の新しさ:D |
バートン版 千夜一夜物語 第1巻 シャーラザットの初夜 (ちくま文庫)
- 発売日: 2003/10/13
- メディア: 文庫
◇◇◇
3. ハードカバーで読める作品
やはり文庫に比べると買う人がぐっと少なくなるハードカバーだが、良書ぞろいである。まずは文庫沼で「楽しかった!」と思ったら、ぜひこちらのハードカバー沼にもお越しください。こっちの水は甘いよ。いちおしはボルヘス『幻獣事典』、グラス『ブリキの太鼓』、そしてガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』。値段と分量でいうならぶっちぎりでムージル『特性のない男』が最強。
ハンス・クリスチャン・アンデルセン『アンデルセン童話集』
- デンマーク:デンマーク語| 値段:D | ページ数:C | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ハンス・アンデルセン,荒俣 宏
- 発売日: 2005/08/10
- メディア: 大型本
ホルヘ・ルイス・ボルヘス『幻獣事典』
- アルゼンチン:スペイン語 | 値段:B | ページ数:A | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:ホルヘ・ルイス ボルヘス,マルガリータ ゲレロ
- 発売日: 1998/12/25
- メディア: 単行本
ホルヘ・ルイス・ボルヘス、アドルフォ ビオイ=カサーレス 『ドン・イシドロ・パロディ 六つの難事件』
- アルゼンチン:スペイン語 | 値段:B | ページ数:A | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
[asin:4000241168:detail]
合わせ鏡にうつる無限の自分としか会話ができないのでは、と心配になる魔術師ボルヘスは、じつはけっこう人情に厚い。友人ルゴーネスの死を悼んで無限を構築しようとするし、若き友人カサーレスの前文を書き、一緒に小説まで書く。本書は、安楽椅子探偵小説のふりをしたボルヘスとカサーレスの文学デートを眺める小説だ。事件の詳細を語る側がなぜかいきなり詩の話をしはじめるあたりでは「こう脱線したら楽しいよボル」「そうだねカサ」と会話をするふたりを幻視した。きゃっきゃしているアルゼンチン魔物勢がかわいい。
パウル・ツェラン『パウエル・ツェラン全詩集』
- ウクライナ:ドイツ語| 値段:C | ページ数:A | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:パウル ツェラン
- 発売日: 2012/02/08
- メディア: 単行本
アルフレート・デーブリン『ベルリン・アレクサンダー広場』
- ドイツ:ドイツ語 | 値段:D | ページ数:B | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:アルフレート デーブリーン
- 発売日: 2012/06/22
- メディア: 単行本
ドニ・ディドロ『運命論者ジャックとその主人』
- フランス:フランス語 | 値段:C | ページ数:B| 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ドニ ディドロ
- メディア: 単行本
ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』
- ドイツ:ドイツ語| 値段:C | ページ数:C | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
[asin:4309709648:detail]
大人になりたくないがため3歳で成長をとめる“ことにした”オスカー少年が見た、ナチス・ドイツと第二次世界大戦。「ぼくが悪いんだ! ぼくが彼らを殺したんだ!」と悪党ぶるねじくれた自意識はおぞましくグロテスクで、露悪することで自分を特別だと思いたい『罪と罰』のラスコーリニコフを思わせる。端的にいえば、とっても痛い。見た目は永遠の3歳児だが、中身は成長することを拒んだ子供青年なので、精神に激痛がはしる。泣けない大人がひたすら1つ数千円の玉ねぎを切る「玉ねぎ酒場」、世にもおぞましいウナギ漁(ウナギ漁と聞いて悲鳴をあげる人がいたら十中八九『ブリキ』読者だ)など、強烈なエピソードにことかかない。
池内紀訳のハードカバー版と高本研一訳の文庫3冊版があるが、翻訳はハードカバーの方がおすすめ。文庫は3冊とも買うと結局ハードカバーとたいして変わらないので、それだったらこの真っ黄色でエキセントリックな方を買おう。
ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』
- コロンビア:スペイン語| 値段:C | ページ数:B | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A(初訳は1972年) |
百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)
- 作者:ガルシア=マルケス,ガブリエル
- 発売日: 2006/12/01
- メディア: 単行本
ジャコモ・レオパルディ『ジャコモ・レオパルディ全詩集』
- イタリア:イタリア語 | 値段:D | ページ数:C | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ジャコモ・レオパルディ
- 発売日: 2006/05/10
- メディア: 単行本
ドリス・レッシング『黄金のノート』
- イギリス:英語| 値段:D | ページ数:C | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
ミシェル・ド・モンテーニュ『エセー』
- フランス:フランス語 | 値段:D | ページ数:D | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ミシェル・ド モンテーニュ
- 発売日: 2003/06/01
- メディア: 単行本
ロベルト・ムージル『特性のない男』
- オーストリア:ドイツ語 | 値段:D | ページ数:D | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:R. ムージル
- メディア: 単行本
ジョゼ・サラマーゴ『白の闇』
- ポルトガル:ポルトガル語 | 値段:B | ページ数:B | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
家ではトイレの扉を開け放つ人でも、ショッピングモールではちゃんと扉を閉める。誰かに見られたら困るからだ。観察する視線がなくなったら、人はどうなるか? ここから先は、人間の性分と品性の問題だ。目の前が真っ白になる奇病が世界中に広がった中、ただひとり目が見えていた女性が目撃したのは、「他人からの視線」を失ってむき出しになった人間だった。そりゃ、歌を歌いながら垂れ流すよね。腐臭。
サアディー『果樹園』
- イラン:ペルシア語 | 値段:C | ページ数:B | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:サアディー
- 発売日: 2010/11/25
- メディア: オンデマンド (ペーパーバック)
ウェルギリウス『アエネーイス』
- ローマ:ラテン語 | 値段:D | ページ数:C | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ウェルギリウス
- 発売日: 2001/04/01
- メディア: 単行本
マルグリット・ユルスナール 『ハドリアヌス帝の回想』
- フランス:フランス語| 値段:C | ページ数:B | 入手可能さ:B | 翻訳の新しさ:C(初訳は1964年) |
- 作者:マルグリット・ユルスナール
- 発売日: 2008/12/16
- メディア: 単行本
◇◇◇
4. 絶版の作品
残念ながら絶版となっている作品。特に『トリストラム・シャンディ』『飢え』『死せる魂』は惜しい。復刊祈願の踊りを踊ると岩と波のあいだから復活することがまれにあるので、皆で踊ろう。
サミュエル・ベケット『モロイ』
- アイルランド:フランス語| 値段:- | ページ数:A | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:B |
未読。『マロウンは死ぬ』『名づけえぬもの』とともに三部作と呼ばれる。ベケットは読むたびに「どういうことなの」という世界を提示してくる作家で、しかもそれが絶妙にどれも方向がちがっているから癖になってしょうがない。
サミュエル・ベケット『マロウンは死ぬ』
- アイルランド:フランス語| 値段:- | ページ数:A | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:サミュエル ベケット
- メディア: 単行本
未読。死ぬほど退屈なので、マロウンは死ぬまで物語をでっちあげ続ける。恐るべきニート小説『オブローモフ』もベッドから動かないが、彼はいちおう生きる気はあった(生命機関はお手伝いにすべてやらせていたが)。だが、マロウンは死ぬ。
サミュエル・ベケット『名づけえぬもの』
- アイルランド:フランス語| 値段:- | ページ数:A | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:サミュエル ベケット
- メディア: 単行本
ジョゼフ・コンラッド『ノストローモ』
- イギリス:英語| 値段:- | ページ数:C | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:コンラッド
- メディア: 単行本
『闇の奥』コンラッド - ボヘミアの海岸線
ジョージ・エリオット『ミドルマーチ』
- イギリス:英語| 値段:- | ページ数:D | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:ジョージ エリオット
- メディア: 文庫
ラルフ・エリスン『見えない人間』
- アメリカ:英語| 値段:- | ページ数:B | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:A |
- 作者:ラルフ・エリスン
- メディア: 単行本
アメリカ文学史をひもとくと必ず本書の名を目にする。小説が「白人男性」のためのものであったアメリカで「わたしは見えない人間だ」と激白したのは黒人男性だった。アメリカ文学のおおいなる転換点のひとつで、これから数十年後には「見えない人間」だった女性たちの作品が多くうまれるようになった。安部公房『箱男』も言っている。人間は見たくないものを見ない。だから彼らの世界には見たくないものは存在しない。
ニコライ・ゴーゴリ『死せる魂』
- ロシア:ロシア語 | 値段:- | ページ数:C | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:B |
[asin:4003260554:detail]
いつのまにか絶版になっていてたいへんな衝撃を受けた。ゴーゴリの作品がすぐに読めないなんて、人生の損失すぎる。死んでも税金を払わなければならない社会システムのおかしさに、さらにむらがる詐欺師と頭のおかしい人々。「死んだ農奴を売ってくれ」という台詞はいかにもロシア的な黒い哄笑に満ちていて、ブルガーコフ『巨匠とマルガリータ』やダニイル・ハルムスたちの世界につながっていく。
クヌート・ハムスン『飢え』
- ノルウェー:ノルウェー語 | 値段:- | ページ数:A | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:D |
- 作者:ハムスン
- メディア: 文庫
ニコス・カザンザキス『その男ゾルバ』
- ギリシア:ギリシア語 | 値段:- | ページ数:B | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:ニコス・カザンザキス
- メディア: 単行本
サルマン・ラシュディ『真夜中の子供たち』
- インド:英語 | 値段:- | ページ数:B | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:サルマン・ラシュディ
- メディア: 単行本
ハルドル・ラックスネス『独立の民』
- アイスランド:アイスランド語| 値段:- | ページ数:B | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:D |
- 作者:H.ラックスネス
- メディア: -
デーヴィッド・ハーバート・ローレンス『息子と恋人たち』
- イギリス:英語| 値段:- | ページ数:B | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:A |
息子と恋人達 I SONSANDLOVERS (英米文学叢書)
- 作者:デーヴィド・ハーバート・ローレンス,土居光知
- メディア: 単行本
アッ・タイーブ・サーレフ『北へ遷りゆく時』
- 作者:アッ・タイーブ・サーレフ
- メディア: 単行本
- スーダン:アラビア語| 値段:- | ページ数:A | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:C |
未読。7年のイングランドでの生活後にスーダンの村に帰ってきた語り手が、新しい村人ムスタファから彼の遍歴を聞く物語。ムスタファやイングランドやヨーロッパを旅した時の物語を語り出す。コンラッド『闇の奥』と多くのシーンにおいて呼応しているという本書は、スーダンで発禁処分になった一方、20か国以上で翻訳された。
ロレンス・スターン『トリストラム・シャンディ』
- イギリス:英語 | 値段:- | ページ数:D | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:ロレンス・スターン
- 発売日: 1969/08/16
- メディア: 文庫
ガルシーア ロルカ『ジプシー歌集』
- スペイン:スペイン語 | 値段:A | ページ数:A | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:B |
- 作者:フェデリコ ガルシーア・ロルカ
- 発売日: 1994/03/01
- メディア: 新書
ジョアン・ギマランエス・ローザ『大いなる奥地』
- ブラジル:ポルトガル語| 値段:- | ページ数:B | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:C |
未読。かつて追いはぎだった語り手が、『千夜一夜物語』のシェヘラザードのように命のために物語を語る。彼の物語は生い立ち、友情、同性愛、そして悪魔の話にまで広がっていく。息つぎも改行もなく一息におのれの物語を語る姿は、しばしばジョイスに例えられるという。
イタロ・ズヴェーヴォ『ゼーノの苦悶』
- イタリア:イタリア語| 値段:- | ページ数:B | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:C |
『ニャールのサガ』
- アイスランド:古ノルド語 | 値段:- | ページ数:C | 入手可能さ:C | 翻訳の新しさ:C |
- 作者:谷口 幸男
- 発売日: 1976/01/01
- メディア: 単行本
- 作者:ヴィルヘルム・グレンベック
- 発売日: 2009/09/10
- メディア: 文庫
サガとエッダの世界―アイスランドの歴史と文化 (現代教養文庫)
- 作者:山室 静
- メディア: 文庫
北欧神話については谷口幸男氏の仕事がすばらしいが、残念ながらほとんどが絶版。山室静氏とグレンベック氏の概論から読んでみることをおすすめする。
◇◇◇
5. 未邦訳の作品
邦訳が出ていない作品。100作品中これだけだと思えば、少ないかもしれない。
Nagīb Maḥfuẓ "Children of Gebelawi"
- エジプト:アラビア語| 値段:A | ページ数:B | 入手可能さ:D | 翻訳の新しさ:- |
Children Of Gebelawi AWS 225 (Heinemann African Writers Series)
- 発売日: 1981/04/13
- メディア: ペーパーバック
まとめ
頭のいかれた友だちが2014年末にとんでもないリストをぶっこんできたので、ついカッとなってお年賀として書いた。今年もよろしくお願いします。
雑記:海外文学おすすめ作家ベスト100(2014年版) - Riche Amateur