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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『八月の光』ウィリアム・フォークナー

アメリカ文学 ☆☆☆☆

邪気眼非モテ地母神

彼はそれを考えて静かな驚きに打たれた――延びてゆくのだ、数知れぬ明日、よくなじんだ毎日が、延びつづいてゆくのだ、というのも、いままでにあったものとこれから来るはずのものは同じだからだ、次に来る明日とすでにあった明日とはたぶん同じものだろうからだ。やがて時間になった。 ――ウィリアム・フォークナー『八月の光』

八月なので『八月の光』を読もう、と気軽に思い立ったのがそもそもまちがいだった。血のにおいがただよう精神に正面から生暖かい吐息をふきかけられ、暑気払いどころか脳髄がのぼせかけた。

もっとも、フォークナーでさわやかな気持ちになったことはない。『アブサロム、アブサロム!』はとぐろを巻く自意識の濁流と衝撃の結末に身悶え、『響きと怒り』は初見殺し率85%(推定)の白痴オープニングで頓死しかけ、『八月の光』では主人公のあまりの邪気眼黒歴史の門が開きかけた。

それでもフォークナーを読むのは、彼の描く生きづらさがあまりにも刺してくるからだ。特に男の生きづらさについての描写は、群を抜いてすさまじい。

南部、南部、ヨクナパトーファ、なんという修羅の土地。

八月の光 (新潮文庫)

八月の光 (新潮文庫)

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ガイブン初心者にオススメする海外文学・ハードカバー編

溶けていく左足を回収しながらほうほうのていで巣に帰り、ぐうたらと引きこもって蜜酒を飲んでいたら、今年はまだ夏休みの自由研究をしていないと気がついた。そういうわけで、以前に書いた「ガイブン初心者にオススメする海外文学・文庫編」のハードカバー編である。

なぜわたしは海外文学のハードカバーを読むか

ばかなの? というぐらい当たり前のことを書くが、ハードカバーは文庫に比べて高い。特に翻訳小説は、小数部数、初版どまりですぐ絶版、翻訳権と翻訳料の支払いエトセトラという五十重苦を背負っているため、最低でも2000円、平均で3000円ほどする。

※五十重苦よく訓練されたガイブン勢は、名菓ヒュアキントスまんじゅうのために5000円、古本屋で見つけたら1週間の食費を奉納して確保すべしと言われていたマルセル・シュオッブの復刊全集に1万5000円など、ガイブン租(国書刊行税)・庸(白水税)・調(作品社税)を喜んで支払うが、彼らがいう「安いよ! お得だよ!」は、ガイブン国(北欧諸国に匹敵する)物価水準なので信じてはいけない。


正直なところ、ちょっと興味がある勢はまず文庫からいくのが、お手軽でいいと思う。だが、文庫沼は限られている。ほぼすべての海外文学はハードカバーで刊行され、運がよければ文庫化される。ハードカバー沼のみに存在するすばらしい書物はたくさんある。

なぜわたしが資金と時間をかけて満身創痍になってまで読むのかといえば、これらの本はわれわれの想像力を超えた世界、驚異、深淵を見せてくれるからだ。手を伸ばさなければ知らない驚異の世界がハッピースマイルの顎を開けて待っている。まずは文庫、そしてさらにおもしろいと思ったら、ぜひハードカバー沼にまで足をつけてみてほしい。こっちの沼は甘いよ。


さて、いつもどおり前置きが長くなったが、本編である。ハードカバー編は、文庫編の基準を踏襲して選んだ。

  • すぐに手に入る(絶版でない)※2015年8月現在
  • 2000円-3000円台(ガイブン国基準で安い)
  • 訳がわりと新しい(読みやすい)
  • 長すぎない
  • 本ブログで☆4〜5をつけた、わたしが好きな本

社畜クラスタ必読

アメリカン・マスターピース 古典篇 (柴田元幸翻訳叢書)

アメリカン・マスターピース 古典篇 (柴田元幸翻訳叢書)

アメリカ文学。翻訳妖怪シバニャン先生が訳したアメリカの古典中の古典を集めた1冊。特にメルヴィル「書写人バートルビー」とホーソーンウェイクフィールド」は「外れてしまった人たち」の物語で、記録と記憶に強烈な爪痕を残していく。バートルビー症候群なる重大な病があり、読んだからには会社で「そうしない方が好ましいのですが」と言わずにはおれなくなる。カフカ『変身』とともに、社畜クラスタは必読の書。

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『イザベルに ある曼荼羅』アントニオ・タブッキ

イタリア文学 ☆☆☆

死とは曲がり道なのです、死ぬことはみえなくなるだけのことなのです。

アントニオ・タブッキ『イザベルに ある曼荼羅

さいなむ悔恨

この世で生きることはあみだくじのようなもので、わたしたちはおびただしい選択をくりかえしながら、人生という不可逆の線上を走っている。

右か左か、寝るか起きるか、魚料理か肉料理か、笑うか怒るか、この手を取るか取らないか、こんばんはかさようならか。ほとんど無意識のうちに、わたしたちは息を吸うごとになにかを選び、なにかを捨てている。

岐路は目の前にあるときは岐路とわからず、通りすぎてしばらくして肩越しに振り返り、それと気づく。
「あの時、分かれ目と知っていれば」「あの時、ああしていれば」
人はこれを悔恨と呼び、アントニオ・タブッキは「帯状疱疹」と書いた。

「わたしはよく、こんな風に思うのです。帯状疱疹というのは、どこか悔恨の気持ちに似ているとね。わたしたちのなかで眠っていたものが、ある日にわかに目をさまし、わたしたちを責めさいなむ。そして、わたしたちがそれを手なずけるすべを身につけることによって、ふたたび眠りにつく。でも、けっしてわたしたちのなかから去ることはない」 アントニオ・タブッキ『レクイエム』

本書は、「なにもかも帯状疱疹のせいだ」と書き残して死んだ男の、病と治癒の物語である。

イザベルに: ある曼荼羅

イザベルに: ある曼荼羅

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『忘れられた巨人』カズオ・イシグロ

イギリス文学 ☆☆☆

「しかし、霧はすべての記憶を覆い隠します。よい記憶だけでなく、悪い記憶もです。そうではありませんか、ご婦人」
 
「悪い記憶も取り戻します。仮に、それで泣いたり、怒りで身が震えたりしてもです。人生を分かち合うとはそういうことではないでしょうか」
カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』

埋められた記憶

人間はなぜこうも傷つきやすい生き物なのだろうか。生物としてはもはや非合理といえるほどあっけなく、われわれ人類はささいなことで傷つき、痛みを抱えて苦悶する。

一方で、人間はなぜこうも忘れやすい生き物なのだろうか、とも考える。あの日の燃える喜びも空の青さを呪う激痛も、そのままに抱え続けられる人は多くない。しかしだからこそ人間は、傷つきやすいというこの致命的な長所を抱えながらも生き延びられたのだ、とも思う。

忘却は喪失でもあり、恩寵でもある。

忘れられた巨人

忘れられた巨人

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電子書籍(Kindle)で読めるオススメ海外文学

気ままな本リスト

ここのところ、これまで海外文学を読んだことがない人に海外文学を読んでもらう方法を模索していて、こんな記事を書いた。

この記事を読んだ人から「本を置く場所がないし持ち運びが重いから、電子書籍の海外文学リストが欲しい」というリクエストをもらったので、「電子書籍Kindle)で読めるオススメ海外文学」リストをつくってみた。

いわゆる名作と呼ばれる王道どころからKindle化する傾向にあるので、今回のリストは有名なタイトルが多め。中でも、わたしがおもしろいと思うものを重点的に選んだ。

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