キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『クレーン男』ライナー・チムニク

[鉄はうたう]
Reiner Zimnik Der Kran 1956.

クレーン男

クレーン男


ここから、そこなら、世界はどのように見えるだろうか?

現ポーランド領に生まれたドイツ人の絵本作家が描く、ある男の一生。町にできた、49メートルの大きなクレーン。そのクレーンに惚れこんだ男が、クレーンの上から見た世界の物語。


ペン画に惚れて買い込んだ一冊である。いい感じに力の抜きどころを知っている絵柄にひかれた。ああいい感じの「絵本」だなあと。だけど、思った以上に「物語」だった。

クレーン男は、クレーンの上に暮らしている。好きなものはユーカリのボンボン。いい友達もいる。だけど、気がつくと戦争がやってきて、町は海に沈んでしまう。それでも、クレーン男は淡々と仕事を続ける。昼間には鉄のさびを落とし、夜にはいるかもわからない船に光を送りながら。ここらへんの描写が、いかにもドイツ人らしい。いい職人ぶりであるところとか、あと物価の値上げ幅が妙にリアルなところとか。

おそらく戦争で死んでしまったなつかしい人々が美しい夢で現れるシーン、クリスマスのシーン、印象的な美しさを持つシーンがたくさんある。あと、ワシがかわいい。こんなキュートな猛禽類、見たことない。

一人で、世界と対話し続けることは難しい。ダンディズムぶるのではなく、ユーモアを交えて描かれるその絶妙なさじ加減が、いい味わいを出している。このバランスは、なかなか得がたいものなんじゃないだろうか。寓話めいていて、実はそうとうに現実的(全て夢にだってできてしまう。そのほのめかしもある)。だけどそのシュールさを乗り越える何かがあるんだな、この本は。

かつて、これほどクレーンがステキに思えたことはなかった。表紙の絵が気になる人は、読んで正解の本。


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