ボヘミアの海岸線

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ノーベル文学賞とバルガス=リョサ、そして大事なものを噛み切られた男の話


 ペルーの作家 マリオ・バルガス=リョサが、2010年ノーベル文学賞を受賞した。昨年のへルター・ミュラーがまさかの大穴だったので、今年はずいぶん順当に来たなあという感じ。
 毎年、ノーベル文学賞授賞式の何が楽しいって、副賞としての「再版祭り」だったりする(誰が取るのかを予想するのもそれなりに楽しいけれど)。

 今回は、岩波が受賞前に『緑の家』を復刊するという快挙を成しとげている。復刊希望が高いのは『世界終末戦争』、それとも『都会と犬ども』あたりだろうか。
 とにかく、おめでとう。ペルー作家のノーベル文学賞受賞ははじめてだから、リマやアレキパは今ごろお祭り騒ぎだろうなあ。


 というわけで、ラテンアメリカ五人集』に収録されているリョサ作品「子犬たち」で祝杯をあげる。
 ペルーに生まれ育った若者たちの日常だ。頭のよさを友人同士で競ったり、サッカーに熱を上げたり、女の子を口説いたり、「お前、先に彼女作るなんて抜け駆けだろ」などと言いあったり。古今東西どこでも同じような日常風景の中に、突如ワンワンワンという鳴き声とともに「ちんこ」というあだ名を持つ少年が現れて、ぎょっとする。
 まるで南米の蒸留酒を飲んだ時みたいなテンポの良さと饒舌ですべては語られる。だけど、その陽気さの裏には、犬に性器を噛み切られた少年の無念さと焦燥がある。
 異性を口説く文化を持つ国で、女性を口説けず付き合えない青年の悲しみは、意外と日本男子の心にも通じるものがあるのではないだろうか。いい年して女性慣れしていないことへの焦りと、「自分には二次元の嫁がいるじゃないか」という諦観と、仕事ではそれなりに成功しているがゆえの男のプライドが衝突して、いざというときに萎縮してしまうやるせなさ。それは、リョサが描く陽気な憂鬱と、裏返しでありながらも同じものであるような気がする。
 「リア充爆発しろ」一派は、とりあえずリョサを読んでみるといいんじゃないかな。と、適当なことを言ってみる。


■すぐに読めるリョサ

緑の家(上) (岩波文庫)

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楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)

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フリアとシナリオライター (文学の冒険シリーズ)

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■しばらくおあずけなリョサ
世界終末戦争 (新潮・現代世界の文学)

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都会と犬ども (新潮・現代世界の文学)

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パンタレオン大尉と女たち (新潮・現代世界の文学)

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ラ・カテドラルでの対話 (ラテンアメリカの文学 (17))

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