キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『宿命の交わる城』イタロ・カルヴィーノ

[文字以外で語る]
Italo Calvino Il Castello Dei Destini Incrociati , 1973.

宿命の交わる城 (河出文庫)

宿命の交わる城 (河出文庫)


 イタリアの国民的作家、イタロ・カルヴィーノによる、カードで語る物語。

 構成方法が変わっていておもしろい。 本書は本であるが、物語はまず文字ではなく、カードの図柄によって作られている。登場人物は言葉では語らない。

 彼らは自分たちの物語を、タロットカードで語りだす。 もちろんそのことを私たち読者が読むためには文字が必要だから、文字で描かれている。絵柄の後に文字がくるという、小説の「文字で語られる」大原則を少しねじ曲げたその発想。うーん、さすがカルヴィーノ

 「城」に集まった王や騎士、さまざまな人々が、自分の「宿命」について、カードで示し出す。どんな人の人生もそれぞれに物語。その物語は個別に完結しないで、それぞれが重なり合って、またひとつの大きな物語になっていく。 そんな壮大な世界と物語が、一枚のタロットカードに、一冊の文庫本に収まっているのが、なんだか不思議でもあり、おもしろくもある。

 私はタロットについて、カードの名前とその大まかな意味、逆位置などで意味が変わるという、ざっくりとしたことしか知らないが、それでも十分読むことができた。タロットの知識は、あったらそれはそれでひそやかな秘密の話が分かるような楽しみがあるだろう。だけどこれはあくまで「表象」の物語であって、知識を必ずしも必要としない。
 タロットは、配列と向き、読む人によって、どのようにも読み取れる。それがこの本で使われているルールでもある。


 人の運命を語ること、それをカードやカップのしみで占うことは、前時代的と見る人も多い。だけどこうしたものはおそらく、当たるか当たらないかの「確率」の問題ではなく、語るか語らないかの「表明」の問題なのだと思う(昨今のちゃちな占いは問題外として)。


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