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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『オセロー』ウィリアム・シェイクスピア

イギリス文学 ☆☆☆☆☆ シェイクスピア全集

[時に嫉妬は愛より重く]
William Sharekspeare Othello , 1602.

イアーゴー:
お気をつけなさい、将軍、嫉妬というやつに。
こいつは緑色の目をした怪物で、人の心を餌食とし、
それをもてあそぶのです。


 「愛」がひっくり返って舌を出して笑ったら、それは「嫉妬」の顔になる。シェイクスピア4大悲劇のひとつ、嫉妬に狂って死んだ男の物語。嫉妬は重力であると思う。愛情が深ければ深いほど、真っ黒な深みの穴にはまって、自力では抜け出すことができない。


 主人公オセローは、「ムーア人」と呼ばれる肌の黒い男だ。さわやかで有能な軍人だが、彼を恨む部下イアーゴーの姦計にはまり、妻デズデモーナの不貞を疑って挙句の果てに殺してしまう。小さな間違いの積み重ねの上に、猛烈な悪意がふりかかった結果の悲劇である。

 ちゃんとした男であるはずのオセローが、嫉妬の怪物に乗っ取られて、あっという間に正常な判断ができなくなる姿に身震いした。何を聞いても、何を見ても、もうすべてが疑いの証拠にしかならない。「明確な証拠が欲しいのだ!想像ではなく!」と理性ぶってみるところがまさに狂気の真骨頂で恐ろしい。
 

空気のように軽いものでも、
嫉妬に狂う男には、聖書のことばと同じ重みのある
証拠の品となる。
……
邪推ってやつはそれ自体毒なんだ、そいつは
初めのうちは特にいやな味もしない、ところが、
ちょっとでも血のなかに入りこむとたちまち
硫黄の山のように燃え上がる。

 オセローの誤ちは、妻よりも部下を信じたことだ。自分の肌の色を気にしていなかったのに、「美しい白人女性が、自分のような黒人男性を好きになるわけがない」と気にする発言をするなど、オセローはあらゆる理由を立てて、疑いを本物にしようとする。

 オセローは「名誉のために殺した!」と言い訳しているが、本当にそうだろうか。プライドと裏腹の劣等感が、疑いを加速させたように思える。

 それにつけても、イアーゴーの極悪ぶりはすさまじい。登場人物をもれなく騙し、5人の人生を狂わせた奸智と悪意がかなり人間離れしている。憎むわ妬むわ逆恨みするわ、金を巻き上げて殺人教唆、口封じに妻を殺すことも厭わない、人間の悪癖と呼ばれるものをすべてぶっこんでグツグツ煮たようなとんでもない男である。そして、イアーゴーもまた嫉妬の怪物に突き動かされていた。嫉妬は人を乗っ取り、しかも伝染する。


 「自分でない人を所有しよう」と思うエネルギーの強大さに改めて驚く。結局オセローは、諮られたとはいえ、自らの意思でデズデモーナを殺した。なんと馬鹿な男だとなじりたくなる反面、だからこそ人間だとも思う。

 果たして愛は、人のためのものか、自分のためのものか。「嫉妬」に関する名言にあふれる作品だった。愛は人を救いもするし、凶器ともなる。だからこそおそろしく、そして人間は愚かしい。この愚かしさが、人間なのか。

理由があるから嫉妬するのではなく、嫉妬深いから
嫉妬するんですもの。嫉妬というものは
みずからはらんでみずから生まれる化け物です。


シェイクスピア全集


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