ボヘミアの海岸線

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『十二夜』ウィリアム・シェイクスピア

[のっぴきならない恋愛は]
William Shakespeare Twelve Nights, 1599-1601.

十二夜 (白水Uブックス (22))

十二夜 (白水Uブックス (22))

どうせ恋の餌食になるなら、狼よりも
ライオンに食べられるほうがどんなにましか。


 シェイクスピアの恋愛喜劇の中でも、特にお気に入りの1作。男女入れ替え、勘違い、3つ巴、片思い、兄妹愛、これでもかとラブコメ要素を積んでいながら、道化や脇役のいたずらといったシェイクスピアらしさも忘れない。

 なんといっても、男装の麗人、ヴァイオラの格好良さが尋常でない。ヴァイオラは船の遭難を生き延びて、イリリアの地にたどり着いた令嬢である。船には双子の兄も乗っていたが、遭難の際に生き別れてしまった。ヴァイオラは、男装をしてイリリアの公爵に仕えることにする。公爵は伯爵令嬢オリヴィアにべた惚れだが、オリヴィアはヴァイオラ扮する美男シザーリオに恋をしてしまう。ヴァイオラは、自分が女であることを公爵に知られないようにしながら、それでも公爵への愛情を止められない。
 貴族組の三角関係では、誰もが1歩も譲ろうとはしない。それぞれ、自分のことを思う相手にはばっさりと拒絶を示し、自分が愛する相手への愛情表現を惜しまない。恋愛はこれほどシンプルな問題であったかと、新鮮な驚きすら覚えた。
 特にいちおしなのは、ヴァイオラの公爵への告白場面。男の従者という立場上、面と向かって恋心を告げているわけではないが、遠回りながらも直球な告白である。むやみにときめく。

ヴァイオラ:でも私は知っております――
公爵:なにを知っておる?
ヴァイオラ:女の愛がどんなものであるか。
 女も私たちに劣らずまことの愛をささげます。
 私の父に娘がありまして、ある男を愛しました、
 私が女でしたらきっとあなたさまに抱いたであろうような、
 深い愛でした。

 
 脇役たちのドタバタ劇も面白い。オリヴィアの執事を騙して笑い転げる不良紳士と侍女のいたずらが、いい感じに悪辣で、非常に庶民らしい。貴族組が大マジメならば、庶民組は徹底的に不マジメである。クライマックスのこれでもかと言わんばかりの大団円ぶりもすごい。公爵とセバスチャンのあの身のふり方の早さといったら!

 全集を眺めていると、「十二夜」以降、「ハムレット」「オセロウ」などの悲劇時代に突入することが分かる。喜劇から悲劇への転換点でもある本書、シェイクスピアはどんな気持ちで仕上げたのだろう? 


シェイクスピア全集


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