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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『賢い血』フラナリー・オコナー

アメリカ文学 ☆☆☆

[清潔であることの生きにくさ]
Flannery O`Connor WISE BLOOD , 1952.

賢い血 (ちくま文庫)

賢い血 (ちくま文庫)

「祈るな、それは嘘だ」


 39歳で不治の病で逝去する、アメリカ女性作家による、いかれたコメディ。ちなみに、オコナー賞のフランク・オコナーとは別人である。帯の一文があまりに印象的だったために手に取った一冊。 神はいるかいないか、救いはあるのかという宗教的な問題がテーマの物語。

 「キリストのいない教会」を説いてまわる主人公ヘイズは、言動ともにかなりクレイジーな人間。自家製の宗教をあがめ、それをあちこちで布教する。いわゆる蔑視される「新興宗教」の典型みたいなものだが、これがさまざまな矛盾をはらむ代物で、じつに薄っぺらい。

 金銭目的なら、嘘をついても良心はこれっぽっちも痛まない。しかし主人公ヘイズは、金銭目的ではなくわりと本気でこれが正しいと思い込んでいる。嘘がつけない、徹底的に不器用で純粋な人間。 そんな主人公は、やがて自分の矛盾に気づいて、迷い、転落していく。


 一見、カルト宗教じみたキテいる人間だらけのやばい小説に見える。 しかし、テーマはあくまで「神への姿勢」という、宗教的に普遍なものだと思う。「神などいない」と嘆くそのことが、すでに神への祈りであり、純粋でまじめに向き合おうとする人こそ、世界と神、自分の「かみ合わなさ」に絶望する。

 本書、内容はともかく、訳が悪かった。 主人公の名前がヘイゼルだったりヘイズだったりと一致していないのはいかがなものか。

 また、これはあくまでコミック小説であるらしい。 ゴリラの衣装をまとって踊る青年やミイラを大事にする少女など、なかなかシュールな場面がある。 これで笑えるコアな読者は、はたしてどれだけいるのだろうか。



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