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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『ダロウェイ夫人』ヴァージニア・ウルフ

[たった一日]
Virginia Woolf MRS.DALLOWAY , 1925.

ダロウェイ夫人 (集英社文庫)

ダロウェイ夫人 (集英社文庫)


 イギリスの女性作家による、6月のロンドンの、たった一日の物語。

 著者ウルフは、イギリスのロンドンの文学一家に生まれた、お嬢様タイプの作家。そのへんの境遇は、本書の主人公であるダロウェイ夫人に似ているけれど、ほがらかなダロウェイ夫人とちがい、ウルフは生涯、神経的発作に悩まされ続けた。

 本国イギリスでは、「夜眠れない? ならばヴァージニア・ウルフを読みなさい」なんていうユーモアが通るくらい、難解な作家とされる。実験的な手法が多いせいかもしれない。本書は、ジェイムス・ジョイスで有名なあの「意識の流れ」の手法によって書かれている。


 時は1923年6月のある日、場所は第一次世界大戦の終わったロンドン。6月は、鬱屈とした天気の多いロンドンの中で、もっとも美しい時期と言われている。お茶会を開くクラリッサの心の流れと、戦争の傷を負った青年の心の流れが、ゆるやかにロンドンを流れて、最後はその記憶が触れ合って終わる。
 劇的ななにかがあるわけでない。いわゆる「客観描写」というものも存在しない(そもそも世界を"客観的"に語ることはできない)。まるでバトンを手渡していくように、意識の主体はさまざまな人に流れ、現在も過去もないまぜになって、徹底的に主観で語られる。 神の目線の排除、意識の流れ。空間的な「時間」と、意識の中の「時間」は、必ずしも一致しない。そんな当たり前だけど、つい見過ごしがちなことを、小説の形で指し示される。


 色とりどりの糸が交互にかさなって、一枚のタペストリーを作るような構成。 はじめは何のことだか分からないのだが、読み進めていくうちに、模様がだんだん見えてくる。 思いもよらないところでつながって、ひとつの流れに集約されていくのがおもしろい。 やや読みにくい印象を受けるが、慣れればゆったりとした流れを堪能できる。 個人的にハードルが高いように思われる「意識の流れ」手法の作品だが、本書ならとっかかりとしてはいいかもしれない。

 個人的に、ピーター・ウォルシュのキャラクターがいい。 なんだかんだと文句や理論を述べながら、クラリッサに恋をしている姿が好ましい。

 人間や世界を、外側からではなく、内側からのぞいてみるおもしろさ。 意識と心だけでできた世界に、ゆらり、流れてみる。


recommend:
マルセル・プルースト『失われた時をもとめて』……マドレーヌをひたす。
ディケンズ『二都物語』……ふたつから、ひとつへ。
ジェイムズ・ジョイス『ユリシーズ』……あまりに長く長く長いが。