キリキリソテーにうってつけの日|海外文学録

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『グレート・ギャツビー』スコット・フェツジェラルド

信じて進んでその先に

愛蔵版 グレート・ギャツビー

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グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

グレート・ギャツビー (村上春樹翻訳ライブラリー)

 そこにいけると信じて、手を伸ばす。しかし、その手は届かない。すべてを賭けて望み、あと少しのところで叶わなかった男、「偉大なる」ギャツビー氏の物語。

 村上春樹氏にとって「人生で巡り合った最も大切な小説」であるという一冊。私にとって「最上の一冊」ではないが、それなりに印象的な話。読んでいる最中は特に何を思うでもなく読んでいたのだが(村上氏の絶賛に気後れしていたのかもしれない)、むしろ読了後に印象が深まる本だった。最初と最後の文章と、緑の灯火を眺める風景が、記憶に残る。


 ギャツビー、優雅であり、陳腐であり、誰もが知っていて、誰からも忘れ去られた、ちぐはぐな男。彼のキャラクターはなかなか飛んでいる。「オールド・スポート」と語り手に対して語りかけるが、この言葉は「親愛なるあなた」みたいな呼び方で、米国の日常語ではない(英国流らしい)。
 そんな奇妙な呼称を使ったり、ピンクのスーツを着ていたり、そして一人の女性(とんでもないおばかさん)に馬鹿みたいに一途。豪邸を建ててパーティを開くが、見返りは、彼女の現れるお茶会にお呼ばれしたいという、実にささやかなものだった。ここまで夢見がちで直球勝負の男は、なかなかめずらしい。

 彼みたいな人が、友達にいたらどうだったろう。おそらく、彼のようにはなれない、なりたくもないと思いながらも、ある種尊敬の念で見つめるかもしれない。だから語り手が、「こんなものは絶対に我慢ならない」と思うようなものを具現化したような男だと言いながらも、「偉大なギャツビー」と親しみをこめて呼ぶ気持ちもわかる。

 建国以来のアメリカの精神である、アメリカン・ドリームにのっとって行動した男が、すべてを失うこの物語は、なるほどアメリカ社会の一面を描き出す。本書が上梓されたのは1925年、まだ暗黒の木曜日も大戦もベトナム戦争も経験してはいない。負けを知らなかったアメリカで、敗北者の小説が問いかけた意味は、むしろ年を重ねるにつれて、重みを増しているのだと思う。

So we beat on, boats against the current, borne back ceaselessly into the past.

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Francis Scott Fitzgerald THE GREAT GATSBY , 1925