ボヘミアの海岸線

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中国文学

『心経』閻連科|聖俗が入り乱れる宗教カオス

共産党はキリストの弟子だということを知っているかい? ――閻連科『心経』 多くの現代日本人は、宗教のことなどわからない、と言う。一方で、クリスマスと仏教式葬式とお参りを熱心に行う。不確かな未来を生きるための指針として、占いは大人気コンテンツで…

『雨に呼ぶ声』余華|家にも故郷にも帰る場所がない

孤独で寄る辺のない呼び声ほど、人を戦慄させるものはない。しかも、それは雨の日の果てしない闇夜に響き渡ったのだ。 ーー余華『雨に呼ぶ声』 『雨に呼ぶ声』を読み終わった後に残った言葉は「寄る辺なさ」である。 自分が所属する共同体に居場所がない時、…

『アルグン川の右岸』遅子建| 消えゆく一族の挽歌

私はすでにあまりに多くの死の物語を語ってきた。これは仕方のないことだ。誰であれみな死ぬのだから。人は生まれるときにはあまり差がないが、死ぬときは一人ひとりの旅立ち方がある。 ――遅子建『アルグン川の右岸』 消えゆく一族の挽歌 人生は、死というゆ…

『白檀の刑』莫言

[悲喜こもごも] 莫言 檀香刑 ,2001. 白檀の刑〈上〉作者: 莫言,吉田富夫出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2003/07メディア: 単行本 クリック: 34回この商品を含むブログ (20件) を見る 白檀の刑〈下〉作者: 莫言,吉田富夫出版社/メーカー: 中央公論新社…

『暗夜』残雪|夜は明けない

「夜はもう明けるの?」ぼくは兄に聞いた。 「まだわからんのか。今は……今は……ああ、やめておこう」 (「暗夜」) 「夜が明けるなんてことを考えさえしなければ、この家と折り合えるさ。夜は明けっこないのだ」(「帰り道」) 夜は明けない 残雪は鮮烈なイメ…

『赤い高粱』莫言

[赤が泣く] Mo Yan 紅高粱家族 Hong GaoLiang JiaZu,1987. 赤い高粱 (岩波現代文庫)作者: 莫言,井口晃出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2003/12/17メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 54回この商品を含むブログ (22件) を見る 万物はすべて、人の血のにお…

『短篇コレクションI』池澤夏樹編

[世界という名のタペストリ] Natsuki Ikezawa edited Colleted Stories I,2010.短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)作者:コルタサル他発売日: 2010/07/12メディア: 単行本 世界中の文学から短編を集めたコレクション第1弾。本書は、…

『阿Q正伝/狂人日記』魯迅

[寂寞と喝破] Hōu Shùrén魯迅; 阿Q正伝, 1921. 狂人日記、1918.阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊) (岩波文庫)作者: 魯迅,竹内好出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 1981/02メディア: 文庫購入: 5人 クリック: 56回この商品を含むブログ (56件) を見る故郷/阿Q…

『黄泥街』残雪│びっくりするほど糞尿まみれの街

[まみれる] CanXue 黄泥街 Huang Ni Jie,1983. 黄泥街作者: 残雪,近藤直子出版社/メーカー: 河出書房新社発売日: 1992/11メディア: 単行本 クリック: 12回この商品を含むブログ (8件) を見る 「なんたる風だ、人の頭の中まで吹き散らかしおって、世界最後…