ボヘミアの海岸線

海外文学を読んで感想を書く

2020-07-01から1ヶ月間の記事一覧

『中央駅』キム・ヘジン|彼方からくる最悪を待つ

プライドや自信。そういうものが本当にあるとすれば、それは自分の手で捨てられるものではない。捨てるのではなく、心ならずも落としてしまうのだ。そして、二度と取り戻せなくなるのだ。今や俺にできることは、かなたからくる最悪を待つことだけだ。 ーーキ…

『春の宵』クォン・ヨソン|酒が人生に染みついた酒人間の語り

「一秒、一秒ごとに、アルコールのメシアが入ってくるのを感じるのですよ」 ーークォン・ヨソン 『春の宵』 健康診断の問診票で「酒をどれぐらい飲むか」という質問を見るたびに、酒は多くの人にとって非日常のものなのだと思いだす。「ほとんど飲まない」「…

『外は夏』キム・エラン|心はあの季節に静止したまま

「理解」は手間がかかる作業だから、横になるときに脱ぐ帽子みたいに、疲れると真っ先に投げ捨てるようにできてるの。 ーーキム・エラン『外は夏』 季節や年月は、すべての人に平等にやってくる。 だがそれは物理法則の話であって、心について言えば、そうと…

『惨憺たる光』ペク・スリン|心のやわらかい場所につながる薄闇

決して死にたかったわけではない。ただ闇のほうがなじみ深かっただけ。 ーーペク・スリン『惨憺たる光』 「光」という単語は、明るさ、まぶしさ、あたたかさ、希望や展望、といった前向きな印象で語られることが多いが、本書における「光」は、惨憺たるもの…