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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

池澤夏樹の世界文学全集は、何が読まれているのか?

シリーズもの 気ままな本リスト

 「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」は何が読まれているのだろう?
 海外文学死亡かるたのまとめを作っているとき、ふとそんな疑問が頭をよぎった。
 わたしにとって池澤夏樹の世界文学全集は、なんとも不可思議なポジションにある。持っていそうで持っていなそう。あるいは、持っていなそうで持っていそう。じゃあ実際のところはどうなんだということで、なっちゃん全集でどのタイトルを所有しているか、Twitterでアンケートをとってみた。
 皆が買った作品は何か、そしてほとんど買われていない作品は何なのか?

1位:

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

2位:

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

3位:

暗夜/戦争の悲しみ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-6)

暗夜/戦争の悲しみ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-6)

4位:

楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)

楽園への道 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-2)

 1位から5位のタイトル間ではそれほど票差がなく(それぞれ2票差ぐらい)、「どれも同じぐらい評判がいい」というラインナップ。確かに、Twitterなどを見ていても「買いました」「読んでいます」という声が多かったと思う。
 やはり「人気の作家×初訳」が人気だ。
 ボフミル・フラバル『私は英国王に給仕した』、残雪『暗夜』、バルガス・リョサ『楽園への道』は初訳で、しかもどの作家も人気があるので納得のランキングだ。残雪&バオ・ニンのペアについては、おそらくほとんどの人が残雪を目当てに買ったのではないだろうか(バオ・ニン『戦争の悲しみ』はめるくまーるから1997年に訳が出ていて、ブックオフなどでもよく見る)。
 一方、1位の『巨匠とマルガリータ』は郁朋社と群像社からすでに翻訳が出ているし品切れでもない。これはむしろ、純粋にこの作品がたいへんおもしろいからだろうと思う。『巨マル』を20世紀の傑作に数える人は少なくないし、読んだ人たちの多くが「これはすごい!」と絶賛している(私もした)。値段は「郁朋社→なっちゃん全集→群像社」の順番だが、訳の良さと装丁の美しさを考えると、やはり『巨マル』はなっちゃん全集版がベストのような気がする。
 ナボコフ『賜物』も既訳がある(福武文庫・絶版)が、これは英訳からの重訳なうえ、若島正から『翻訳の世界』誌の「改訳したい小説ベスト10」で多数の誤訳を指摘されたという逸話がある。今回はロシア語原典からの初訳ということで、期待があったのかもしれない。ナボコフも根強いファンがいるしね。プニンプニン。


 というわけで、1位から5位までは、わりと納得のメンツだった。さて、次は票を最も集めなかった8作品。

1位:

鉄の時代 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-11)

鉄の時代 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-11)

アメリカの鳥 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集2)

アメリカの鳥 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集2)

アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-12)

アルトゥーロの島/モンテ・フェルモの丘の家 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-12)

2位:

ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)

ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)

アデン、アラビア/名誉の戦場 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-10)

アデン、アラビア/名誉の戦場 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-10)

フライデーあるいは太平洋の冥界/黄金探索者 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-9)

フライデーあるいは太平洋の冥界/黄金探索者 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-9)

  本当は1位から5位までつけたかったのだけど、1位と2位だけで8冊になってしまった。それぞれ1位=1票、2位が2票。意外だったのが、デュラス『太平洋の防波堤/愛人』/サガン悲しみよこんにちは』が入っていないこと!(3位だった)。池澤夏樹サガンをいれたことは、本全集・最大の謎である(新潮文庫でいつでも手にはいるものを、なぜわざわざハードカバーで読まねばならぬのか)。
 ここにランクインしている作品のうちで規訳があるものは、熱心な読者なら「すでに持っている」、海外文学を読んでみたいと思う人は「いまいちおもしろくなさそう」というものが多いように思う。ジャン・ルオー『名誉の戦場』やエルサモランテ『アルトゥーロの島』、ジョゼフ・コンラッド『ロード・ジム』あたりは、作家の人気が最近それほどないうえ、あらすじが地味。E.M.フォースター『ハワーズエンド』は古典だが「あえてこれを?」という気もする。
 アップダイク『クーデタ』やマッカーシー『アメリカの鳥』は、知らない作品だったので少し興味を持ったのだが、結局買わなかった。なんというか、すごくあらすじが微妙なのだ。あと一歩のところで、読みたいという気持ちにならなかった。こればっかりは人の趣味だと思うのだが、私が手をのばさなかった作品がこうしてランクインしているのを見ると、他の人はなぜこれを選ばなかったのか、聞いてみたくなる。

 全ランキングは、下記URLの「Results」から見られるので、ここに掲載していない作品の順位が気になる人はどうぞ。


 

わたしが読んだ&文句なしにおもしろかった小説

 ちなみに、私が持っているタイトルはこんな感じ。カプシチンスキ『黒壇』はランキングに入っていなかったけれど、大変おもしろいのでおすすめ。

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

 ☆☆☆☆☆。どこまでも楽しくシニカルで、文句なしの傑作。→感想
アブサロム、アブサロム! (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-9)

アブサロム、アブサロム! (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-9)

 ☆☆☆☆☆。においたつ血の因縁。初読時の衝撃はすさまじかった。フォークナーの中ではいちばん好き。→感想
わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

わたしは英国王に給仕した (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

 ☆☆☆☆。エロティックで陽気で悲惨。皇帝がやってきた時の歓迎料理がやばい。→感想
 絶賛積読中。
黒檀 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

黒檀 (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

 ☆☆☆☆☆。東欧のジャーナリストが見たアフリカ。冷静な視点と、アフリカのぶっ飛びぶりという組み合わせが絶妙。→感想
短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

短篇コレクションI (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 第3集)

 ☆☆☆。アメリカ大陸、アジア、アフリカの作品を収める。名作はだいたい既訳で、初訳は微妙なものが多かった。→感想


 こうやって思い返してみると、買った作品はどれも楽しめた。ただ、これ以上はあまり買う気にはなれなかったのも確かで、「もう少し初訳が欲しい」「絶版を復刊するならこっちじゃなくてあっちがいい」「なぜこれを入れた」という感情がないまぜになっている。
 とはいえ、なっちゃん全集はこれまで読まなかった人が読むきっかけを作ったし、書店の海外文学棚の棚幅を広げてくれたので、企画はやっぱりすごかったと思うのだ。なっちゃん全集の不可思議ポジションぶりを再確認した晩秋の一日。

 ※アンケートは、2012年11月1日時点で集まった160票をもとに集計した。



これまでにつくった海外文学リスト