キリキリソテーにうってつけの日

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『オデュッセイア』ホメロス

[憎まれし英雄の流浪]
Homelos Odysseia,B.C.8?

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈上〉 (岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈下〉 (岩波文庫)

ホメロス オデュッセイア〈下〉 (岩波文庫)


 今年はギリシャ神話をたくさん読んだ。2009年をしめるギリシャ神話としては、やはりこの一作がふさわしいだろう。

 『イリアス』とともに古代ギリシャ叙事詩の傑作として知られる作品。「トロイの木馬」作戦を考案してトロイを滅亡させた英雄オデュッセウスが、20年ぶりに故国に帰るまでの物語。オデュッセウスという名は「憎まれた子」という意味を持つ。オデュッセウスはきまぐれな神々から憎まれて運命を弄ばれる。そのせいで、なかなか故国に帰ることができない。


 本作には、「故国の土地を踏むまでの漂流記」と「妻への求婚者を皆殺しにする復讐劇」という、2つの軸がある。 女神のもとでの監禁生活、部下を1つ目怪物に目の前で食べられる恐怖、冥界への旅路など、オデュッセイの旅路は波乱に満ちている。本書では、どちらかといえば「求婚者皆殺し劇」の方が印象に残っている。
 そもそも状況把握にけっこう苦労した。ことの発端は、オデュッセイの妻であり絶世の美女と謳われるペネロペイアへの元へ、求婚者が殺到したこと。理由は、オデュッセウスの不在と行方不明疑惑、つまり「夫はもうこの世にいないかもしれないから別の男に嫁げ」というわけである。20年近くも姿を見せないのであれば、その意見は一理ある。が、求婚者たちはなぜか何十人規模でオデュッセウス家におしかけ、毎日豪華ディナーを繰り広げる。料理はすべてオデュッセウス家が用意。つまり、何十人もの男たちが、結婚を申し込みながら仲良くただ飯を食らっているのである。
 相当変な状況だ。ギリシャではこれが普通なのか? と思いきや、オデュッセウスの息子テレマコス(求婚者を追い返せない草食系)やペネロペイアが怒りまくっているので、あまり普通ではないのかもしれない。求婚者たちが出てきた瞬間、あまりに死亡フラグが立ちすぎていたことが、なんともやるせない気持ちにさせた。


 オデュッセウスは正統派英雄で、知略と腕力に長け、自分に自信を持っている(私のすばらしい腕前、と堂々と言い切れるところがすごい)。とはいえ、略奪を奨励したり、宝物を要求したり、あちこちで浮気をしているあたりはいかにも人間らしくて、現代の「清廉潔白な英雄」とは少し雰囲気が異なる。『イリアス』を読んだ時にも思ったことだが、なかなか英雄が子供らしいと思う(『イリアス』におけるアキレスのすねっぷりはすごかった)。


 いろいろ見どころは尽きないが、一番は「表現の豊かさ」だろうか。おなじみの「雲を集めるゼウス」「白き腕のヘレネ」といった慣用句はもちろんのこと、

「食欲を追い払う」=満腹
「何という言葉があなたの歯ぐきから漏れたことか」=失言
「翼ある言葉をかけて言うには」=言葉を速やかに届ける?

など、言葉使いがとても印象的。原文では韻文になっているらしいから、さぞかし耳で聞いたらおもしろいのだろうと思う。
 また、夜明けの描写や荒れ狂う大波、1つ目怪物の残忍さなどの描写もなかなかにリアルだ。殺人では「頭蓋を砕き、血と脳しょうをぶちまける」という直接的な表現が多用されていて、血なまぐささが目の裏に浮かぶようだった。

 『イリアス』と『オデュッセイア』だったら、『オデュッセイア』の方が主人公がはっきりしていてよくまとまっている。とはいえ、個人的には『イリアス』の群像劇の方が好きだ。いかにも神話らしく、多くの人の思いが絡まって歴史を突き進んでいくさまがいい。


ホメロスの他作品レビュー:『イリアス』


recommend:
ジョイス『ユリシーズ』…オデュッセイアの壮大なパロディ。
カミュ『シーシュポスの神話』…永遠という名の拷問。