ボヘミアの海岸線

海外文学を読んで感想を書く

海外文学の祭典「ワールド文学カップ」がすごい


 2010年4月1日以降、新宿に通う日々が続いている。
 目的地は、紀伊國屋書店新宿本店のブックフェア「ワールド文学カップ」。「世界53カ国、650種類の文学」を全ポップ付きで紹介するという、海外文学読みにとっては垂涎もののお祭りだ。

「ワールド文学カップ」
期間:2010年4月1日〜5月17日
場所:紀伊國屋書店新宿本店 2階中央催事場

 最初、この企画の話を聞いたとき、何かの冗談なのではないかと思った。4月1日、エイプリルフールにフェアは始まる。妹に相談したところ「君を喜ばせるための嘘だよ」と断定された。やっぱりそうだよねー、と思いつつ、新宿に行ったらきちんとフェアはあった。でも、夢かどうか分からないので、とりあえず10冊ほど本を購入。翌日になっても本は消えておらず、代わりに財布の中身はきれいに消えていた。よかったと安堵する私を横目に、妹がやれやれとつぶやきながら階段を下りていった。


 さて、「ワールド文学カップ」の話。本フェアを主宰するピクウィック・クラブのブログTwitterがとてもおもしろい。毎週売り上げランキングを公表し、売り切れ本を「出場停止」として速報している。ハッシュタグ「#wbungaku」では、いろいろな人が買った本や読んだ本をつぶやいている。


 ブログのいちコーナー「戦力分析」は読みごたえ十分だ。サッカーフォーメーションの「ベストイレブン」という形で、いろいろな人がおすすめの11冊を紹介している。というわけで、わたしのベストイレブンはこんな感じ。

FW:サン・テクジュペリ『夜間飛行』
FW:ホメロス『イリアス』
FW:フリオ・リャマサーレス『狼たちの月』
MF:アドルフォ・ビオイ・カサーレス『モレルの発明』
MF:スチュアート・ダイベック『シカゴ育ち』
MF:ボフミル・フラバル『あまりにも騒がしい孤独』
MF:イタロ・カルヴィーノ『レ・コスミコミケ』
DF:ウィリアム・シェイクスピア『マクベス』
DF:ウィリアム・フォークナー『アブサロム、アブサロム!』
DF:フランツ・カフカ『城』
GK:ジョルジュ・ペレック『煙滅』


監督:オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』
控えFW:コーマック・マッカーシー『ブラッド・メリディアン』
控えMF:フリオ・コルタサル『悪魔の涎・追い求める男』

 FW組。端正で美しいシュートを決めそうな『夜間飛行』と、壮絶な迫力を持つ『狼たちの月』。神と英雄の攻撃力を頼みに『イリアス』を配置した。
 MFは『モレルの発明』『レ・コスミコミケ』という、トリッキーさと端正さを併せ持つ選手。『シカゴ育ち』については、正直悩んだ。右翼手が突然死ぬわけの分からない短編があるので、不安といえば不安。でもまあ、これは野球じゃなくてサッカーだし、基本的によいパスさばきをしそうなので入れてみた。『あまりにも騒がしい孤独』は、図らずも身に付けてしまった教養できっとなんとかしてくれるだろう。
 DFの『マクベス』は、女から生まれた者には倒されないという防御力を頼みに配置。『アブサロム、アブサロム!』『城』は、ものすごく分厚い壁を築いてくれそうだ。
 GKは、フランス語最頻出の文字「e」をすべて消失させた超絶技巧の『煙滅』にした。もし逆転されそうになったら、きっとボールも煙滅してくれるだろうという期待をこめている。
 監督『ルバイヤート』は、正直いって趣味である。まあ、ものすごく頭のいい人なので、頭脳戦には向いている、はず。とはいえ、指示といったら「皆、土に還る! だから飲め!」ぐらいしかなさそうだが。
 控えの『ブラッド・メリディアン』は、敵も味方も殲滅する異常な攻撃力なので、極力出したくない。『悪魔の涎・追い求める男』は、巧みかつトリッキーでよい選手だと思う。


 ドーナツが半分ほど残っていたので、ダメすぎるチームもついでに考えてみた(※こちらのチームは、フェア本以外のものが一部混在)。

FW:セリーヌ『夜の果てへの旅』
FW:ルイス・ホルヘ・ボルヘス『伝奇集』
FW:マンシェット『愚者が出てくる、城塞が見える』
MF:レーモン・クノー『イカロスの飛行』
MF:サルトル『嘔吐』
MF:イスマイル・カダレ『死者の軍隊の将軍』
MF:メルヴィル『バートルビー』
DF:クッツェー『恥辱』
DF:ゴンブロヴィッチ『フェルディドゥルケ』
DF:エイモス・チュツオーラ『やし酒飲み』
GK:カート・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』


監督:フェルナンド・ペソア『不穏の書、断章』
控えMF:ムージル『ムッシュー・テスト』

 FWは、攻撃力が高いがチーム力が欠如している。『夜の果てへの旅』は、攻撃力はあるが基本的に世界を呪っている。『愚者が出てくる』も攻撃力が高いが、味方をぶん殴るのでアウト。『伝奇集』は超絶技巧を持つが、目が見えていないのでシュートできない。
 MFは、すぐに吐き気を催す『嘔吐』、働くことを拒否する『バートルビー』が足を引っ張る。『イカロスの飛行』は好き勝手飛び回るだけで、『死者の軍隊の将軍』はひたすらフィールドを掘ることに夢中になっている。
 DFは、意味不明な言葉を吐きまくる『フェルディドゥルケ』と酒を飲むしか能がない『やし酒飲み』が、相手の攻撃をスルーする。『恥辱』は敵の攻撃を甘んじて受け入れ、苦悩しながらも耐え忍ぶ。
 GW『スローターハウス5』は、得点を入れられるたびに「そういうものだ」とニヒルに笑うだろう。監督の『不穏の書、断章』は、「もうずいぶん前から、私は私ではない」と言って責任逃れをする。控えの『ムッシュー・テスト』は、存在しえない人なので戦力にならない。


 ちなみに、通りをはさんで向かい側にあるジュンク堂書店新宿店では、連動フェアとして「ディアスポラ文学」フェアを開催中(4月1日〜4月30日)。
 まったくもって、新宿は魔窟である。でも、私にとっては黄金郷。