キリキリソテーにうってつけの日

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『昨日』アゴタ・クリストフ

[亡命者の言葉]
Agota Kristof Hier ,1995.

昨日 (ハヤカワepi文庫)

昨日 (ハヤカワepi文庫)

そこにあったのは、自分の家を離れ、自分の国を離れたものたちの道だった。その道はどこへも通じていなかった。


 ハンガリーの亡命作家が描く、祖国を失った男の物語。この本はフランス語で書かれた。アゴタ自身が亡命した先の国の言語である。そのせいか、文体は簡潔で、小さい積み木を積み上げていくような、淡々としたもの悲しさがある。

 娼婦の息子として生まれたトビアスは、人を刺した後に名前を変え、国境を越えた。国境を越える場面は、「悪童日記」3部作にも通じるところがある。異国で、息が詰まるような灰色の工場で働くトビアス。しかし彼には、リーヌという少女がいた。もっとも、彼女には夢の中でしか会えないが。

 世界描写がひどく美しい。雨と風と土があって、リーヌのことを考える時につかの間輝いては、また色を失っていく。最後の1ページのそっけなさが、また重い。心の中の何かがすこんと落っこちるような、悲しいのか虚しいのかわからない不思議な余韻を残していく。

 何冊もの本を書いても、すべてが大きな1冊の物語になる作家というのがいて、おそらくアゴタ・クリストフもその1人なのだろう。本書は「悪童日記」3部作を彷彿とさせる場面がいくつもあった。しかし「悪童日記」シリーズが鮮烈すぎて、あまりこちらは印象に残らなかった。残念。


アゴタ・クリストフの作品レビュー:
「悪童日記」


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