ボヘミアの海岸線

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『芝生の復讐』リチャード・ブローティガン

[メランコリー・メモリー]
Richard Brautigan REVENGE OF THE LAWN Stories1962-1970 ,1971.

芝生の復讐 (新潮文庫)

芝生の復讐 (新潮文庫)

ことばで表すことのできない感情と、ことばでよりはむしろ糸くずの世界をもって描かれるべきできごとに、今夜の私は取り憑かれている。
わたしの子供時代のかけらたちのことを考えていた。それらは形もなく意味もない。遠い生活のかけら。ちょうど糸くずのようなことがらなのだ。(『糸くず』より)


 アメリカについて、あるひとりの作家の記憶の断片から、語られ紡がれる物語。
 本書は、60本以上の、長さも文体もばらばらの短篇から成る。淡淡として、それでいてどこか不思議な幻想的な世界が降り積もって、ブローティガンの持つ「アメリカ」を見せている。

 「アメリカ」って何だろう、と考える。私の持つアメリカの記憶は、もう何年も前にホームステイをした時の記憶だけだ。
西部の田舎で、小麦畑を眺めながら、コカコーラを飲み、日曜は教会に連れて行かれ、平日はステイ先の少年とともに、湖まで遊びに行った記憶。
それが私にとっての「アメリカ」だ。一方で、ニューヨークやサンフランシスコに住む友人から語られる「アメリカ」は、本当に同じアメリカだろうかと思うほど違っている。

 ブローティガンの語るアメリカは、どちらかといえばわびしい。貧しかったり、忘れられたり、ひっそりと生きている人々が、幻影のように語られる。以下、印象的だった短篇の覚え書き。


「芝生の復讐」:人生の最初の記憶。
「1/3 1/3 1/3」:3人でしあげた小説について。こういう雰囲気はなんか好きだ。
「コーヒー」:珈琲が好きなので、もちろんこの作品も好き。人生は、珈琲一杯の温かさの問題である。
「サン・フランシスコの天気」:アメリカの持つ「飲み込み力」のようなものについて。
「カリフォルニアは招く」:肉を大量に買うおばあちゃんの行動が。・・・
こみいった銀行問題」:確かに、月末は銀行が込んで大変。
「装甲車」:アメリカぽいような、そうでないような。


 地に足がついていない雰囲気の、ふわふわとただよう、記憶のかけらを泳ぐような作品。そういえば、ブローティガンが描くようなメランコリーな雰囲気を持つ友人がいる。読んでいて、ふと思い出した。さて、あの子は元気にしているだろうか……。


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