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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『シカゴ育ち』スチュアート・ダイベック

アメリカ文学 ☆☆☆☆☆

[風の町]
Stuart Dybek THE COAST OF CICAGO , 1990.

シカゴ育ち (白水Uブックス―海外小説の誘惑 (143))

シカゴ育ち (白水Uブックス―海外小説の誘惑 (143))

 僕らが住んでいたシカゴでは、ヨーロッパじゅうの、相容れないいくつもの国家が、雑音の多いダイアルの右端のあたりに一緒くたに詰め込まれていた。


 ショート・ショートから、中篇まで、ダイベックの作品を集めた短篇集。まるでアルバムをめくるように、それぞれの1篇が、古きシカゴの中で生きる人々の息使いを描いている。

 物語はおもに、移民が多いシカゴのダウンタウンが舞台。ラジオから知らない国の言葉が流れてくる、奇妙な異国情緒。かわるがわる現れては消えていく人々。夜の街を走るキス、特急電車のカップル。冷凍室に閉じ込められた、アル中おじさんの伝説。

 なにか劇的な事件があるわけではない。だが、どんな単調な日々でも、ふと光る一瞬がある。本書はそんな瞬間をすくいあげて、短い文に凝縮している。モノクロ写真の一カ所を彩色したようなイメージだ。作者自身も『シカゴ育ち』。地元ならではの視点と愛着が好ましい。

 短篇をつなげば、一冊のシカゴの街になる。地味だが私はとても好きな本だ。自分が住んだ、しかし今は失われた町を思い出しながら読んで、なんとも切ない気持ちになった。


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