『不死の人』ホルヘ・ルイス・ボルヘス
[世界に酔いしれ]
Jorge Luis Borges El Aleph,1949.
- 作者: ホルヘ・ルイスボルヘス,Jorge Luis Borges,土岐恒二
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1996/08/01
- メディア: 新書
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どんなにもなりうる人というのはいない。ただ一人の不死の人がすべての人である。(「不死の人」より)
アルゼンチン随一の幻想作家による、時間と空間の「迷宮」短編集。
構成要素のわからない作家がいる。「何を食べたらこういうものを作れるんだ」と首をひねらずにはいられない作家たち。そんな作家のリストに、ボルヘスはぜひ招きたい。とんぼみたいに、見ている世界が違うんじゃないか、脳の住む次元が違うんじゃないか(比喩ではなく、直接的な意味で)とわりと本気で思うお人である。
ボルヘスの書いたものは、小説ではなく「言葉で構築された何か」だといった方ががいいかもしれない。たとえば、メビウスの輪。世界は始まりもなく終わりもなく、ぐるぐると閉じて廻っている。一は全、全は一。偏在と不在。論理と反証。時代が時代なら、彼は間違いなく「魔術師」と呼ばれていただろう。
以下、気になった作品の一言レビュー。
「不死の人」:
伝説の不死の都にたどり着いた男の手記。ホメーロスの時代から20世紀まで生きた男が、自分の生について語る。「そんな馬鹿な、嘘くさいよ」という反論さえ絡めとるこのしかけ。濃密で酔い痴れる。
「タデオ・イシドロ・クルスの生涯」:
メビウスの輪の中で、「死」を描くとこうなる。まさにボルヘス的作品。死は廻り続ける。
「アベンカハーン・エル・ボハリー」:
王と奴隷、立場の逆転、理屈の反転。事象の結果と経過は必ずしも一致しない。
「アレフ」:
なんだかすごいものに出会ってしまった。という作品。この作品、ボルヘスの実体験談な気がしてならない。そしたらいろいろ納得するんだけど。
「博覧強記」というか、「博覧狂気」というか、とにかく引用と論理の構築がすさまじい。「神学者たち」は、哲学辞典を読みながらでも、ぜんぜん消化しきれなかった。ボルヘスは、どこまでもいっても、つくづくボルヘスだった。彼には、比類も類推も存在しない。
ホルヘ・ルイス・ボルヘスの著作レビュー:
『伝奇集』
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