キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『デス博士の島そのほかの物語』ジーン・ウルフ

[綺想きらめく]
Gene Rodman Wolfe The Island of Doctor Death and Other Stories ,1970.

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)

デス博士の島その他の物語 (未来の文学)


 去年から、国書刊行会「未来の文学」シリーズを読み始めている。70年代のモダンSFってけっこう好きかもしれない。
 ごつい表紙とは裏腹に、端正で美しいSF短編集。「博士」3部作とその他2編を収める。どれも超絶技巧の職人技みたいな構造で、うっかり流し読みしようとすると置いてかれる。この本はゆっくりと腰を落ち着けて読みほどきたい。
 ジーン・ウルフの作品では、非情な現実とロマンが融解する。ナイフを背中に突きつけられるようなひやりとした感触がありながら、それでも世界はきらきらと光っている。さすが、帯に「綺想」と書いてあるだけのことはある。

 加えて、彼の文章はとても「映像的」だ。どれくらい映像的かというと、木星に一度も行ったことがないのに、木星の様子が目の前に浮かんでくるくらい。
 世界設定も手が込んでいて、廃墟と化したアメリカや、文明崩壊後の世界が舞台になっている。しかし、どうしてそんな世界になったのかについての説明はほとんどない。それは、作品の中で徐々に明らかにされていく。
 以下、各編の一言感想。気に入ったものには*。


「デス博士の島その他の物語」
 1人の少年が、マッドサイエンティストのデス博士と話をしながら日々を生きる。子供部屋の向こうには、つらい現実が待っているが……。夢を見たり魔法を信じたりする、なんとも切ない子供の心情。愛する本ほど読み終えたくないという、主人公の少年の気持ちはよく分かる。
「アイランド博士の死」
 美しい海と原始林のある島で目覚めた少年に、島の中心存在である「博士」が話しかけてくる。少年がこの島に連れてこられた目的、島のどこにいても話しかけてくる博士(でも姿は見えない)の存在という「謎」が中核となる。深い森に海、美しい世界観の裏には、灰色のケーブルが見え隠れしている。「モレルの発明」を思い出す作品。
「死の島の博士」
 とある男が冷凍睡眠から目覚める。未来は「不死」が可能になった世界だった。ディケンズがまさかこんな形で出てくるとは……。電子出版が普及してくると、ここで出てくる「話す本」なんてものに近いのが出てくるのではないだろうか(BGM付きの小説とかね)。
「アメリカの七夜」
 文明崩壊後の荒れたアメリカに、1人の中東人がやってくる。青年は7つもらったお菓子のうち1つに覚せい剤を仕込み、毎日1つずつ食べていく「1人ロシアンルーレット」を開始する。いったい、どの夜が幻覚だったのか? 「信用できない語り手」と空白の一夜。ミステリとしても楽しめる一作。

「眼閃の奇蹟」
 目が見えない少年が、荒廃した世界を生き延びる。舞台は「オズの魔法使い」を思い出す。目を開けている時に何も見えない少年は、普通の人と逆に、目を閉じている時に見えないものが見える。視覚描写を丁寧に排除しているため、読み始めた瞬間から「主人公の目が見えない」ということが一発で分かる(ここらへんの手捌きがすばらしい)。絶えず幻想と現実が交錯するので本書の中ではかなり読みにくい方だが、私はけっこう好き。特にラストの一文は絶品。粋だ、粋すぎる。


recommend:
アドルフォ・ビオイ・カサーレス『モレルの発明』…夢と現実、ロマンと機械仕掛けの交錯。
シオドア・スタージョン『夢見る宝石』…つらい現実を前に、なおも少年は夢を見る。


usual revolution and nine

usual revolution and nine

 どこか憂いを帯びたピアノと電子音の融合。叙情派SFに合いそうなBGM。「Alive」という曲がよい⇒視聴
 No.9 official web site