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キリキリソテーにうってつけの日

海外文学/世界文学の感想ブログ。

『母なる夜』カート・ヴォネガット

[呆然と立ち止まり]
Kurt Vonnegut MOTHER NIGHT ,1961.

母なる夜 (ハヤカワ文庫SF)

母なる夜 (ハヤカワ文庫SF)

母なる夜 (白水Uブックス (56))

母なる夜 (白水Uブックス (56))

 
 第二次世界大戦中、ナチスの宣伝員でもあり、アメリカの諜報員でもあった男の回想録。また買ってしまった、ヴォネガット。気がつくと、手元に一冊ずつ増えている気がする。

 帰る場所を失った人の話が、なぜか読むのが好きだ。なんでだろう。だからヴォネガットも好きなのかもしれない。戦争批判としてはあまり読まなかったけど、そう読むとこれはこれでなんとも苦い。


 主人公キャンベル・ハワード・ジュニアは、第二次世界大戦中はナチスの宣伝官。一方で、道端で誘われてアメリカの諜報員として働いたという、二重経歴を持つ。

 どちらの国にもつけない、帰属意識の喪失。唯一戻れる場所は、愛する妻のもとだけだったが、その妻も、戦争の最中に行方が分からなくなる。


 なんとも切ない話だった。誰にも存在を知られることなくひっそりと、ニューヨークという都会で生きる元戦犯。
 誰も彼のことを知らず、求められる時は、政治的目的に利用される時だけ。一度は本当の友情や愛情が手に戻ったかと思うのだが、それもすべて失って、帰る場所がなくなって、呆然と立ち止まる。孤独に生きて、孤独に死んでいく主人公の姿が悲しい。

 世の中には、戦争に参加してもその罪を問われなかった人々がたくさんいる。どこまでが罪として裁かれて、どこまでが裁かれないか、その境界線があいまいなまま時が過ぎて、そして主人公は自ら助かる道を捨てた。罪悪感からそうしたのだったら、こうも印象的な話ではなかったと思う。


 「母なる夜」は、ゲーテファウスト』でメフィストフェレスが語る闇の本質のこと。
 先に光が見つからない、先へ進めない主人公の思いが重ねられている気がする。


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