『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』カート・ヴォネガット
いったいぜんたい、人間はなんのためにいるんだろう? カート・ヴォネガット『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』
絶望からくる博愛
人は誰もが、小さな器を心に抱えてうまれてくる。うまれてまもなく、彼らをこの世に送り出した男女が水をそそぎ始める。この小さな器はその大きさに見合わず水をどんどん飲み干し、いっこうに満ちる気配がない。育つにつれて友人や兄弟、恋人など、水を注ぐ人は増えていく。底なしかと思われた器には水がたまっていき、やがてあふれる。そしてようやく乾きから解放されたその人は、周りの人の器をのぞき、それらの器に水を注ぐことを考えはじめる。
人は、愛や優しさをじゅうぶんに受けなければ、他者にそれを与えることは難しい生き物ではないかと思う。もっとも影響を与えるのは、最初に無条件の愛と優しさをそそぐ親だ。しかし、家庭の環境に恵まれなかった人や、傷つきやすく繊細な人の器の底には穴があいていて、彼らは善良な人々からの優しさや愛をむさぼり食い、ときには腹いせに踏みにじりながら、器を満たそうとする。
ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを (ハヤカワ文庫 SF 464)
- 作者: カート・ヴォネガット・ジュニア,浅倉久志
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1982/02/01
- メディア: 文庫
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