『カンポ・サント』W.G.ゼーバルト|傍らにいるのだ、死者は
写真が人の胸をあれほど衝くのは、そこからときおり不思議な、なにか彼岸的なものが吹き寄せてくるからである。——W.G.ゼーバルト『カンポ・サント』
傍らにいるのだ、死者は
ゼーバルトは、どの町を歩いていてもいずれ第二次世界大戦の瓦礫に漂着する、希有な難破の才能をもっている。彼は旅にまつわる散文をいくつか残しているが、彼が訪れた土地すべてが地続きのひとつの荒野であるような気がしてならない。
陰鬱な英国の海岸も、陽光ふりそそぐ南のコルシカ島も、第二次世界大戦の瓦礫の山も、彼の筆にかかればすべてが「死者がざわめくモノクロームの追憶」となる。ゼーバルトは端から見れば観光客だろうけれど、彼は観光客が見ているものを見ていない。アウステルリッツとは彼だったのだと思い知る。