ボヘミアの海岸線

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『氷』アンナ・カヴァン|愛の絶対零度

 今ではもう私たちのどちらかが犠牲者なのか判然としない。たぶん互いが互いの犠牲者なのだろう。 —ーアンナ・カヴァン『氷』

愛の絶対零度

 これぞ唯一無二。手の上に、虹色にかがやく絶対零度の氷塊がある。この氷塊が、わずか数百枚のページでできていることが脅威的だ。世界も魂も人間関係も愛も、なにもかもが氷点下なのに、それでも温もりを求めて絶叫する。壮絶である。人間とはそう簡単に絶望できるものではなく、むしろ絶望の包囲をかいくぐり、針の穴のような希望を渇望する生き物なのだと思い知る。

氷 (ちくま文庫)

氷 (ちくま文庫)

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