『タウリケーのイーピゲネイア』エウリーピデース
[姉による弟殺しの運命]
Euripides Iphigenia in Tauris, 414 BC.

- 作者: エウリーピデース,久保田忠利
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2004/12/16
- メディア: 文庫
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呪われたアガメムノーン一族の行く末の物語。アガメムノーン一族には、神々に呪われた不運がつきまとっている。一族の血塗られた歴史がいつの代で浄化されるのか気になるものだから、ついギリシャ悲劇は芋づる式で読んでしまう。これまでの、アガメムノーンをめぐって流された復讐の血は、ざっとこんな感じである。
- アガメムノーンの父、アトレウスによる弟への復讐。弟の息子を料理して、弟に食べさせる。
- アガメムノーンによる、イーピゲネイアの殺害(未遂)。戦争の生贄に捧げた。
- アガメムノーンの妻、クリュタイメーストラーによる夫殺し。娘イーピゲネイアを殺された恨み。
- アガメムノーンの従兄弟、アイギストスによるアガメムノーン殺し。父親から受け継いだ恨みを、クリュタイメーストラーと共謀して晴らす。
- アガメムノーンの息子オレステースによる、母(クリュタイメーストラー)殺し。父親殺害の恨み。
そして本書のテーマは、「姉(イーピゲネイア)による弟(オレステース)殺し」。イーピゲネイアは殺される直前に、アルテミスによって助けられて、ギリシアの辺境の島、タウリケーで暮らしていた。一方、母殺しを行ったオレステースも、タウリケーに流れてくる。
お互いに生きていることを知らない姉弟が、思いもよらない出会いをする。イーピゲネイアは外国からやってきた男子を生贄に捧げる巫女で、オレステースはその生贄に選ばれていた。いつ2人は互いの素性に気づくのか、それとも気づかないまま、また不運が起きるのか? どきどきしながら読んだ。
題材は非常に興味深いが、劇作家としては、アイスキュロスの方が好みだった。最初の口上がやや長く、説明口調なのが気になる。
一方で、面白かったのはギリシアの感嘆詞。「おお」とかに訳さないでそのまま残してくれているので、声に出して読んでみるとなかなかユーモアがある。
破滅です、わたしはもう破滅です。
父の館はなく、
オイモイ、わたしの血族は絶えました。
ペウペウ、アルゴスの国にとってはなんという苦難か。
イオー、神霊よ、
あなたはたった一人の弟をわたしから奪い、
ハーデースのもとへ送ってしまわれたのです。
しかし、イーピゲネイアに裏切られたトアース王は、もう少し怒っても良さそうなものだが。ともあれ、復讐劇はひとつの結末を迎える。この姉弟には、幸せになってもらいたいなあ。
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