『テンペスト』ウィリアム・シェイクスピア
[魔法は消えるか]
William Shakespeare The Tempest ,1611?
- 作者: ウィリアム・シェイクスピア,小田島雄志
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1983/01
- メディア: 新書
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だが、大地に礎をもたぬいまの幻の世界と同様に、
雲に接する摩天楼も、豪奢を誇る宮殿も、
荘厳きわまりない大寺院も、巨大な地球そのものも、
そう、この地上に在るいっさいのものは、結局は
溶け去って、いま消えうせた幻影と同様に、あとには
いっぺんの浮雲も残しはしない。
「私の魔法は消えました」。そう語るのは稀代の魔術師プロスペロー、そしてウィリアム・シェイクスピア本人ではないだろうか。
舞台で夢を見せ続けた作家による、「最後の作品」。作数を重ねるごとに、ますます魔術師のようになっていくシェイクスピア作品の、最後を飾るにふさわしい一作となっている。
「テンペスト」は、その名が示すように、嵐が吹きすさぶ陸の孤島から始まる。
この嵐は、空気の妖精エアリエルが起こしている。妖精を使役しているのが、かつてのミラノ大公プロスペロー。プロスペローは、大公のくせになぜか魔術に没頭し、政治の舞台から追い出されてからは、陸の孤島で魔術師として暮らしている。自分を追い出したナポリ公アロンゾーとその息子ご一行の船を、死なない程度に難破させて、自分達の島に引き寄せる。
本書もまた、かつて何度もシェイクスピア劇の中で繰り返された「復讐」がテーマである。しかしそこは最後の作品だ、復讐の輪は閉じられる。これまでギリシャ悲劇を読んできたせいか、あらためて感慨深いものがある。
自由になりたいためにせっせと働くエアリアルや、不細工者キャリバン、老顧問官ゴンザーロー、恋に落ちる若者たちなどの登場人物もおもしろい。たった数名しかいない孤島で、老若男女に妖精たちがいて、まるで小さな「地球」の舞台のようだ。そうしてそれは、シェイクスピアがずっと語り続けてきたことでもある。
四大悲劇読了後に、手に取ることをおすすめする。すてきな魔法だった。拍手。
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