『新アラビア夜話』ロバート・ルイス・スティーブンスン
[続きはまた明日]
Robert Louis Stevenson The New Arabian Nights, 1882.
- 作者: ロバート・ルイススティーヴンスン,Robert Louis Stevenson,南條竹則,坂本あおい
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2007/09/06
- メディア: 文庫
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19世紀、ロンドンとパリの舞台で、悪党と王子と企みがステップを踏んで踊りまくる。『ジキール博士とハイド氏』『宝島』でおなじみ、スティーブンスンが描く活劇譚。
最近、重めの話ばかり読んでいたものだから、スティーブンスンの快活な語り口がやたらとなつかしく感じられた。ホームズにしてもそうだが、19世紀イギリスは妙なロマンをかきたてる。小学校時代はホームズとともに育ったせいか、どうにもこの雰囲気には弱い。
おもに2つの物語「自殺クラブ」と「ラージャのダイヤモンド」のオムニバスで、全編7編を収録する。秘書や軍人、聖職者など、短編の主人公はそれぞれ異なるが、全編を通じて登場するのが、ボヘミアの王子とお付の大佐の二人組。王子フロリゼルは、びっくりするほど正統派王子で、お付きの大佐も、なかなかの助さん格さんっぷり。さらにいろいろな欲にまみれた人間たちが絡んできて、スペクタクルが起きるしかけになっている。
「自殺クラブ」
死にたい人間が集まる「自殺クラブ」。そこでは毎晩、ギャンブルで殺し殺される人が決まっていく。このシステムで儲けている悪党と王子が対決する。
気に入ったのは「クリームタルトを持った若者の話」。若者がクリームタルトを売って、断られたら自分で食べちゃうというのがいい。読んでいて、福本伸行作品を思い出した自分はどうなのか。
「ラージャのダイヤモンド」
インドの藩王からもらった極上のダイヤモンドをめぐる陰謀。基本的に王子サイド以外の人間が欲望まみれ。「丸箱の話」、このスピード感はいい。ほかは少し失速気味に感じられた。王子の後日談は、個人的にはあれでいい気がする。
クラシックなエンターテインメントは楽しい。チェスタトン『木曜日だった男』みたいに、ぶん投げられることもないので、安心して読める。個人的には、チェスタトンのぶっ飛びぶりの方が好きだが、スティーブンスンの「おもしろがらせよう」という語り部精神がうれしくもある。欲をいえば、さてこれからというところで、ふつりと途切れてしまうのが残念だ。その語り口こそがアラビアン・ナイトと言えなくもないのだが。さて、続きはまた明日?
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